よし子の緑談話と三四郎は恐からの送金
兄が、よし子を呼んだのはよし子に縁談の口があるということであった。そのために国元には既に了解を取っているが、本人の意見を確かめる必要が起こったというのだ。三四郎は
「結構ですよ」
と答えて、自分の用件を先に片付けて帰ろうと思った。野々宮は机の引き出しから預かった金を出して三四郎に渡した。手紙の中には、友人に金を貸すのはあまリよくない、学生の身分で金額が大きすぎると書いてあった。
野々宮さんは、あまリ心配する必要はないが、田舎の生活相場て考えるとお母さんの言い分も尤もなことだと言った。三四郎も、田舎の生活を考えたら、母親にも軽率なことをして迷惑を掛けたなと後悔した。野々宮は母親から三四郎の事情をよく調べて知らせてほしいと言われている。
三四郎は、与次郎が馬券を買って自分の金を失ったのだと正直に説明した。野々宮は事情を了解し、取リあえず今回のことは仕方がないと了承した。
三四郎は自分の用件が済んだので、帰ろうとしたらよし子も一緒に帰るという。
兄は妹に、縁談のことはどうするのだと聞いた。妹はその話はしなくてもいいと拒絶した。妹は、知リもしない人の所に、行くか行かないかと聞かれても、返事のしようがないと言っている。
三四郎は、二人をそのままにして、急いで外に出た。
よし子の縁談話は、よし子が断る気配である。
一方、美禰子の兄・恭助の縁談は進行して いる が、間もなく結婚することになると、美禰子の処遇が問題になる。美禰子は、早く見 合いをして結婚するように迫られているに違いない。
三四郎は野々宮の下宿を出た 気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より
外は風が強い。三四郎は、下宿に戻 って自分の運命を考えた。与次郎のことも考えた。自分の運命は与次郎に翻弄されている。母親から送ってきたこの三十円も与次郎に翻弄されたせ いだ。この先どんな運命が待っているか。明日はともかくこの金を美禰子に返しに行く。その時、美禰子はどういう態度に出るか。自分の運命はどう出るだろう。なるべく、大きく煽(あお)リが来た方がよい。
三四 郎は自分の巡命が吉と出るのを期待している。
翌日、学校で与次郎に会って、昨夜の野々宮さんの御説教はどうだったと聞かれた。三四郎は、話はそれほどでもなかったと答えた。
二時間後の講義の時、また出会った。今度は「広田先生のことは大丈夫、旨くいきそうだ‥‥君も先生の所へ時々来てほしい」と言う。
金は受け取ったかと聞くので、今日美禰子に返すつもリだと話した。
美禰子は原 口の所に毎日通って、画を描いてもらって いるという。三四郎は原口の住所を教えてもらった。
美禰子がモ デルになって、原口に画を描いてもらっているらしい。
気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より R0720250619