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ポイント 美禰子の肖像画 気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より





ポイント 美禰子の肖像画

展覧会に出す肖像画は、美禰子が団扇を蒻して、木立を後ろに明るい方を見ているところを等身大に写すつもリである。早くしないと嫁に行かれたら自由に描けなくなるという。三四郎は多大な興味を持って原 口の話を聞いた。特に美禰子が団扇を騎している構図は、非常な感動を三四郎に与えた。原口と美禰子の間に、何か不思議な因縁があるように感じた。
すると広田先生が

「そんな図はあまリ面白いこともないじゃないか」

と無遠慮なことを言い出した。

「でも当人の希望なんだもの。団扇を翳しているところはどうでしょうと言うから頗(すこぶ)る妙でしょうと言って承知したのさ。何、悪い図どリではないよ。描きようにもよるが………」

と原口は納得している。

原口が描く肖像画は美禰子の希望で団扇を蒻している姿である。三四郎が池のほとりで美禰子に出逢ったあの日と同じポーズではないか。三四郎は、その構図に感動を覚えたという。そんな呑気なことでいいのか。美禰子が何故、その構図を希望したのか、その意図は何であるのかなど、もう少し身近に興味を持ってもいいと思うが。

先生は

「あんまリ美しく描くと結婚の申込が多くなって困るぜ」

と冗談を言って、

「 君はどうだい」

と原口をからかっていたが、ともかく、先生は、

「あの女は自分のきたい所でないと行きっこない。勧めたって駄目だ。好きな人があるまでは独身で置くがいい」

と言った。

「全く西洋流だね。尤もこれからの女はみんなそうなるんだから、それもよかろう」と原口も相槌を打つ。それから二人は絵画について長い談義をしていた。

広田先生は「美禰子の肖像画をあまり美しく描くと、結婚の申込が多くなる」と心配している。まさに、美禰子も当初の意図は、半ば見合写真を意識した肖像画であることが暗示されている。当時の「森の女」の肖像画には、一般にそんな意味が含まれている。
しかし、今は事情が少し違う。美禰子には三四郎という男がいるのだ。この肖像画は三四郎との出逢いを記念した構図であり、できたら三四郎と結婚したいという願望の現われかも知れない。美禰子の間接的な愛の表現と思われる。

気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より  R0720250601

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