◎ 魚の養殖とハウス栽培
質問: 養殖をすると海が汚れるのではないですか?
答え: たしかに養殖が始まつた頃は、魚の排泄物のことまで考えが及ばなかつたのです。それは私たちのゴミを埋めていたら、そこから毒物が流れてきた時代もあったのですが、それと同じです。
質問: それでは、養殖しても海を汚さないのですか?
答え: 目然に魚が育っても、養殖してもキチンと管理すれば同じです。「生産の時代」に魚をとることだけを考えたからで、「環境の時代」の考え方をとれば、全く問題はありません。
質問: 自然ものに対して、養殖ものは味がよくないので、食べたくないのですが?
答え: 日本にとっては海が大切ですから、養殖の技術を裔めて天然物と同じ品質のものを作るのはできるのですが、今のようにみんなが養殖を嫌っていたら、いつまでもダメでしょう。
質問: でも、養殖は管理するのに石油などを多く使うのではありませんか?
答え: 石油が高騰したときに漁船が出漁を止めたことを覚えておられるでしょう。天然ものの魚をとるために、遠洋に行くにはものすごく石油を使います。それから見ると、近海の養殖はその分だけ石油は減ります。
質問: ハウスで野菜を育てるのに問題はないのですか?
答え: 問題点は多くあります。温度管理や、昆虫がハウスの中にいないことで受粉などが自然にできないこと、連作(毎年、同じ畑で作物を作ること)をすることなど、問題点は多いのです。
質問: それじゃ、やはり露地が……。
答え: いえ、「技術が低ければ悪い」と言うことなのです。ハウス栽培や養殖も同じで、日本の高度な工業技術に比べると、全く低い技術レベルなのですが、それは、日本人が日本の農業と漁業に温かい目を注いでこなかったことが原因しています。
質問: ネットなんかを見ますと、ハウスものや養殖に反対が多いのですが?
答え: たしかに養殖ではかつてエサや薬のやり方に不信感がありました。 でも今は違います。また、今や「天然もの」は贅沢品ですし、飢えている人の多い途上国から食糧を輸入し、「お金で買えばいいじゃないか」という考えは私は賛成できないのです。
答え: 本当は「少子化対策」をしてはいけないのです。日本の自然を考えると、人口が多すぎるのです。だから、このまま出生率が低ければ、100年後ぐらいにはちょうど良いのですが。
質問: それじゃ、人口を減らさないと!
答え: いろいろな考え方があると思いますが、結婚するとか、子供を何人持つかというのはその人にとって大切なことですので、それを「石油を節約したいから」などの理由で制限しない方が良いと思います。「人口が減らないと食糧は不足する」、「人口は一人一人の幸福の結果だから、受け入れる」という二つの矛盾したことを解決するとしたら、ハウス栽培や水耕栽培(注)、それに養殖や内水面漁業(注)の技術を高めて解決するしかないと思っています。
(注) 水耕栽培 ハウス栽培をさらに進めて、土を使わずに水を使い、栽培する方法、太陽の光ですら、人工的な光を使うこともある。もちろん、エネルギーは使うけれど、食料の輸入は少なくなると期待されている。
(注) 内水面漁業 海を使う養殖では、管理が完全にならないので、陸の上に人工的な海水面を作ったり、海の一角を完全にしきって、魚や藻類を飼育する方法。
『家庭で行う正しいエコ生活』武田邦彦 平成21(2009)年 講談社刊より 20251226
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