忍者ブログ

yymm77

ポイント 本郷四丁目の唐物屋 気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より




ポイント 本郷四丁目の唐物屋

三四郎はその日の夕方、野々宮さんの所へ出掛けたが、時間が少し早すぎるので‘散歩かたがた四丁目まで来て、シャツを買いに唐物屋へ入った。そこへ偶然よし子と美禰子が連れ立って香水を買いにきた。美禰子は

「あら」

と挨拶した後て、

「先達ってはあリがとう」

と礼を述べた。三四郎にはこの御礼の意味がわかった。美禰子から金を借リた翌日、もう一度訪問して余分の十円を返す代わリに、二日ほど経ってから丁寧な礼状を送ったのである。三四郎はできるだけの最上級の言葉を並べて感謝の意を熱烈に表した。明らかに書きすぎている。しかし、感謝以外は何も書いていなかった。美禰子からは、今日まで返事がなかった。美禰子からは、もっと熱い反応を期待していたのに、今「この間はあリがとう」という冷淡な反応には、がっかリして返事も出なかった。美禰子は、何か気分が重いようだ。三四郎に対して何かわだかまりがある。

二人の女は、傍に来て、一緒に三四郎のシャツを見てくれた。しまいに、よし子が

「これになさい」

と決めてくれたので、三四郎はそれにした。今度は三四郎の方が香水の相談を受けた。香水のことは三四郎には一向にわからない。いい加減に、ヘリオトロープ(注1 ) と書いてある瓶を持ってきた。

「これはどうです」

と聞いてみたら、美禰子は

「それにしましょう」

と意外にあっさリ承諾した。三四郎はこれでよかったのかと気の毒なくらいであった。それにしても、よし子に比べて美羅子の態度は、どうもよそよそしい。しかし、三四郎の選んだ香水は気の毒なくらいにあっさりと承諾してくれた。本当にあれでよかったのだろうか。

( 注1 ) ヘリオトロープ〈Heliotrope〉



ニオイムラサキ、キダチルリソウなど鑑賞用の数種の園芸上の総称。ペルー原産。葉は長楕円形。夏に青紫色の化を穂状につけ、芳香を放つ。この場合は、その花から採り、それと同じ香りに調合した香水のこと。

気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より  R0720250617
PR

コメント

プロフィール

HN:
yymm77
性別:
非公開

P R