序章 基礎編 フェイクニュースに惑わされないための「科学」の基本のキ
原則その① 科学は「未来」を予測しない
一見すると科学の話のようでありながら、実はデータの裏づけなどの根拠がまったくない……、そんな似非(えせ)科学が今の世の中にはあふれています。
残念なことに、新聞やテレビ で大きく報じられ、社会的に「定説」とされているような事柄においても同じことが言えます。そうしたものに 蝙されないためには、まず“科学の基本”というものを理解することが大切です。
ここでいう科学の基本とは、物理の公式であるとか、数学の2次方程式とかそういうものではありません。科学というものが持っている外見的な特性というような、ちよっと注意してみれば誰の目にも見えるもののことです。ここを理解していれば、「科学の皮をかぶったウソ」に蝙されることはなくなるでしょう。
科学がどういうものかを理解するということは、物事の“本質”を見究めること。
数字や数式は必要なし。ですから、本書で身につけていただきたい“理系思考”は逆説的ですが、いわゆる「文系」の人のほうがいわゆる「理系」の人より深く理解できるかもしれません。
まず、科学の基本原則として「科学は未来を予測しない」ということがあります。これは案外と多くの人が見誤っているポイントでしょう。
よく科学者と呼ばれる人が、「来年の予想」や「10年後の日本」など将来予測をするのをテレビで見かけますが、本物の科学者は安易に”未来”を予測しません。それはなぜでしょうか。
そもそも科学というものは、「わからないことがある」というのが基本になっているからです。
「私たちは森羅万象のうちのほんの一部しか知らず、ほとんどのことがわかっていない」―――、このような認識を持っているのが、本物の科学者です。
これは哲学の世界でも言われていることです。

有名なドイツの哲学者のゲオルク・ヴィルヘルム・フードリヒ・ヘーゲルが『法の哲学』の序文に記した「ミネルバのフクロウは夕暮れに飛翔する」という言葉をご存じの方もいるでしょう。
ミネルバとはギリシャの女神で「知恵と勝利」を司(つかさど)っていて、横に傅(かしず)くフクロウは「学問」のことなら何でも知っています。そのフクロウは、日が明けても飛び立たず、夕方になると飛び立つというのです。ここでの朝とは「物事の始まり」、タ方とは「すべて終わった後」を表しています。
この言葉の意味は、「フクロウ(哲学者)の役割は“過ぎ去った時間の中で形成されたものを概念としてまとめ、世の中に提示すること”である。哲学者は、予言者ではない」ということです。
科学者もこれと同じです。
物事が始まるときに活動を始めるのは政治家や実業家です。そして昼が過ぎ、夕方になるとその日の勝負がついて、選挙に落選する人、事業に失敗する人というのが出てきて、当選した政治家やお金を儲けた実業家が繁栄します。
飛び立ったフクロウはそうした経緯を上空から見て、「あの人はこういうことで成功したんだ 」「彼はこういうところで目が利いたんだ」ということを科学的に説明するのです。
『フェイクニュースを見破る 武器としての理系思考』武田邦彦 (ビジネス社刊) R060514 P020