興味深いメルマガが来ましたので、その一部を抜粋して、共有したいと思います。
人のふんどしで相撲を取る EV、スマホなどの利用法 イアン・キング
以下メルマガ内容
イーロン・マスクが生み出す
“世界最強”のAIネットワークの正体
イアン・キング先日、イーロン・マスク氏が興味深いアイデアを披露しました。
それは米国時間10月22日に開催された、
テスラの第3四半期の決算発表の電話会議でのこと。
マスク氏は次のように述べました。
実はずっと考えていたんだ。
もし私たちのクルマたちが“退屈している”としたら、
つまり、使われていない時に、
巨大な分散型の推論フリート(推論ネットワーク)を作れるんじゃないかと。
運転していないときには、みんなでAIの推論をしてもらえばいい。
フリートとは、車両の集団のこと。
つまり、AIを搭載したテスラ車のうち、
駐車中の数千万台が巨大なネットワークのノードになる...
言わば、思考を共有するということです。
一体これはどのように機能するのでしょうか?
思考するフリート
推定値はさまざまですが、2024年時点では世界中で約500万台のテスラが走行していました。
そして、マスク氏の計画では、最終的には1億台に到達するとされています。
彼は決算発表の場でこう語りました。
いずれ、数千万台、あるいは1億台のクルマがフリートに存在するようになり、 それぞれが1キロワットの高性能推論能力を持つとしたら――
つまり、冷却と電力供給が完備された100ギガワット規模の
推論ネットワークが存在することになる。
それは非常に重要な資産だと思う。
つまり、「1億台のテスラ×1キロワット=100ギガワットの計算能力」
ということ。
これはおよそ「原子炉100基分の電力出力」
あるいは「アメリカの7,500万世帯をまかなう電力量」
に相当します。
参考までに、AWS(Amazon Web Services)や
Google Cloudの巨大なデータセンター1つが
消費する電力は50〜100メガワットほど。
そして、この100ギガワットという規模を実現するには、
約1,000棟のデータセンターが必要になる計算なのです。
しかも、その膨大な計算資源は生産済みの車...
つまり、既に「製造済み」「支払い済み」「自宅の駐車場にある」ものなのです。
そして、テスラの自動運転用コンピュータ「Hardware 4」は、
すでにデータセンター向け高性能チップに近い性能を持っています。
出所:テスラ
さらに、現在開発中の次世代システム「AI5」の処理能力はその数倍。
つまり、テスラの各車両はこれまで
「データセンターでしか実現できなかったレベルの計算力」
を持つようになる可能性があるということです。
各車両には高性能プロセッサーと電源システム、
そしてAIタスクを実行できる熱制御システムが搭載されています。
すでにクラウド接続され、ソフトウェア更新や
マップのダウンロードも空中経由(OTA)で行えます。
そして、データセンターとの違いはもはや1つしかありません。
それは、ほとんどの時間“何もしていない”ということ。
なぜなら、車は一日のうち95%の時間を駐車状態で過ごしているからです。
これを踏まえれば、マスク氏のアイデアは単純明快なものになります。
「その休んでいるコンピューターたちを働かせよう」
もし世界中の駐車中のテスラ車から
少しずつ計算力を借りられれば、どうなるでしょうか?
既存のクラウドネットワークが“中央集権的で非効率”に
見えるような「分散型ネットワーク」を構築できます。
・画像認識モデルの実行
・自動運転シナリオのシミュレーション
・動画データの処理
など、
それらを夜のうちに数百万台の車に分散して実行できるのです。
これにより、テスラは他の自動車メーカーやクラウド企業が
簡単には真似できない“堀”を築くことになるでしょう。
実際、GMやフォードはAI5のような独自チップを持っていません。
アマゾンにも500万台の接続車両は存在しません。
これはAIの構造を「中央集権的スーパーコンピュータ」から
「分散型推論」へと移行させる動きでもあります。
いわば、
・スマートフォン
・ドローン
・産業用ロボット
を支える“エッジ・コンピューティング”の自動車版です。
そうなれば、もはや特定のデータセンターに存在する必要がなくなります。
「テスラ車がが駐車されている場所」が、
そのままAIネットワークの一部になるのです。
私の見解
もしマスク氏がこの大胆な構想を実現できれば、
テスラのフリートは地球上最大級のAI計算施設に匹敵するでしょう。
ただし、現実化にはいくつかの課題があります。
車のバッテリーを使って、通常のAIモデルのような
推論をさせると大きな負荷がかかります。
そのため、慎重に管理しない限り、
バッテリー寿命を縮める可能性があります。
また、「自分の車をテスラの計算に使われたくない」
と考える所有者もいるでしょう。
さらに、欧州やカリフォルニアのデータプライバシー法では、
利用者の同意と透明性が必須です。
しかし、テスラはすでに「巨大分散システムの運用経験」を持っています。
既に自動運転システムのアップデートや
新しいビジョンモデルの訓練では、
世界中の数百万台から動画データを収集・処理しているのです。
今回の違いは、「AIを訓練する」だけでなく、
「AIを実際に動かす」という点です。
この未来では、テスラ車は単なる移動手段ではなく
「計算力の資源」となります。
さらにその所有者は、ソフトウェア上で参加を許可し、
駐車中に車の計算リソースを“貸し出す”ことで、
報酬やクレジットを得られるかもしれません。
そのため、テスラにとっては新たな収益を
既存の車両から得ることが可能になります。
つまり、 ロボタクシー事業と同様、
車が増えれば自動的に規模は拡大します。
売れるたびにネットワークの計算力が増大するからです。
まさに“革命的な発想”と言えるでしょう。
もしこれを実現できれば、
マスク氏は「世界で最も強力かつ分散したAIネットワーク」を
運営することになるかもしれません。
それも、データセンターを一棟も建てずに...
イアン・キング