〈ナポレオンの遺言〉
我はローマ教会の信徒として死す。50余年前、その胸に抱かれて生まれたからである。私の遺体はセーヌ河畔に葬ってほしい。私が深く愛するフランス国民の中にありたいからである。
我が最愛の妻マリア・ルイーズは、常に私に満足を与えて来た。そこで世を去るにあたって心からの愛情を捧げた。我が息子は未だ幼少のため、願わくは世のさまざまの誘惑に陥らないよう守りたまえ。
〈東條英機の遺言〉
処刑は個人的には慰められるところがあるが、国内的の自分の責任は、死を持って償えるものではない。
しかし、国際的な犯罪としてはどこまでも無罪を主張する。力の前に屈した。自分としては、国内的な責任を負うて、満足して刑場に行く。
ただ、同僚に責任を及ぼしたこと、下級者にまで刑の及びたることは、実に残念である。天皇陛下および国民に対して深くお詫びする。
ナポレオンの遺書には私的なことしか書かれていませんが、東條英機の遺言には自分の身を守ろうとする気持ちがまったくありません。そして、日本は正しかったが連合国の武力に屈したことを悔み、同僚や天皇陛下や国民に迷惑をかけたことを気にしています。
しかし歴史上の功績という点では、東條は卑下する必要も、開戦の責任を気にする必要もないと思います。天皇陛下、政府、軍部がともに御前会議で賛成して開始した戦争を、東條は負け戦(いくさ)になるかも知れないと知りながら、日本の勝利のために努力し、力尽きたというだけのことです。
そして、日本が行った戦争こそが、アジア、アフリカの人たち全体の願いであり、結果として、その願いを叶えたのですから、むしろ「輝かしい業績」と言えるでしょう。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R072025080