陰謀と正義の演出:アメリカ戦争史に見る自作自演の構造
アメリカの戦争には―つの大きな特徴があります。それは「戦争の原因を作ったのは相手の国だ」ということにするために、必ず予備的段階で「自作自演の事件や陰謀」をすることです。その点では、(道徳的には別にして)アメリカは極めて優れている国です。
アメリカン・インディアンの土地を奪うときには、最初にお酒を飲みに行ってインディアンと友人になります。数回、一緒に飲んですっかり友人になると、隣で田畑を耕して生活したいので、あらかじめ了解を得ておきたいと言って、「契約書」か「承諾書」のようなものを持ってきます。
インディアンは人を蝙すという概念がほとんどなかったので、すっかり信用してあまりよく契約書を見ずにサインをします。でも、その契約書や承諾書にはその辺一帯の土地をアメリカ人(白人)に譲るということが書いてあります。しばらくして、しらふのアメリカ人が兵隊を連れて現れ、契約書を見せて「お前が土地を譲ると言うから来た」と言います。
インディアンは第一に「契約」というシステムがありませんし、第二に「人を謳す」こともないので、ビックリします。それでもアメリカ人は、「契約書に基づいている。
お前がサインした」と言い、強引に土地を取り上げます。
こんなことが続いて、インディアンは徐々に不毛の地に追いやられ、祖先の住処から遠いところで貧弱な生活を強いられます。そのインディアンに対してさらに不当な要求をアメリカ人がしてくるので、「そんなことは到底、のめない。もともとこの地は俺たちのものだ。そんな屈辱を受けるくらいなら戦って死のう!」となって戦いを挑みます。
許されない非道な要求に耐えきれず、自ら戦争に打って出たインディアン部族は次々「戦いを挑んだのはインディアンだ」ということになり、ついにほぼ全滅してしまいました。
メキシコとの戦いでは、領土がハッキリしない地域に300人にも満たない兵士とならずものを集めて、まず小さな砦(アラモの砦)を守らせます。それにメキシコの軍隊が8000人で攻めて来ても支援部隊を出しません。そこで戦いになると、当然、砦のアメリカ守備隊は全滅します。そうさせておいてから「リメンバー・アラモ(アラモの砦を忘れるな!)」と叫び、復讐戦と称してメキシコの領土を奪取しました。
ハワイの占領の際には国際的にも問題がなかったので、単に軍艦を派遣してハワイ王国を滅ぼしましたが、そのとき、王位継承者の女性は行方不明のままになっています。
次に、フィリピン奪取時は、アメリカの軍艦メリ1号をスペインの軍隊の近くに停泊させ、アメリカの手でアメリカの軍艦であるメリ1号を爆沈させます。普通の人なら自分で自国の軍艦を爆沈させることなどしませんから、事故か、あるいはスペインの軍隊の陰謀と思うのは当然です。
さらに、それに社会的な事件を加えるのがアメリカ人の用意周到なところで、メリー号事件のときには、スペイン人がアメリカの夫人に乱暴を働いたという記事をアメリカの新聞に出します。それもかなり刺激的な記事だったので、アメリカの世論が一気に沸騰して「スペインは野蛮だ!ケシカラン!すぐスペインを叩け!」となり、アメリカ・スペイン戦争になります。
でも、アメリカは最初から用意周到に準備しているので、戦闘が始まるとアメリカの連戦連勝で、太平洋地域のスペイン領を一気に奪取したのです。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720251025