第二章 池の女 あらすじ
東京の街
三四郎が東京で驚いたものは沢山ある。第一、電車がちんちん鳴るので驚いた。非常に多くの人が乗リ降リしている。次に丸の内で驚いた。尤も驚いたのはどこまで行っても東京がなくならないということであった。とこを歩いてもすべての物が破壊されつつあリ、またすべての物が建設されつつある。大変な動き方である。
この激烈な活動そのものが即ち現実世界だとすると、自分のこれまでの生活は、現実世界に全く接触していない。世界はかように変動するが、自分は見ているだけて加わることはできない。
また思想についても、明治の思想は、西洋の歴史に現れた三百年の活動を四十年で繰リ返している。
三四郎が一人塞ぎこんでいるうちに国元の母から手紙が来た。今年は豊作で目出度い、身体を大事にしろという注意、東京の者は利口で人が悪いから用心しろ、学資は毎月月末に届くように送る、勝田の政さんの従弟にあたる人が大学を卒業して、理科大学に出ているそうだから訪ねていって、万事よろしく頼むがいいと結んである。欄外に野々宮宗八殿と書いてあった。
三四郎は野々宮宗八を訪ねることにした。
『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 （文芸社刊 2016年）より R0720250409
