本来、アメリカは日本と戦う必要がなかったが……
アメリカは、徐々に日本冦囲網を作っていきます。
ここで注意する必要があるのは、アメリカは日本を攻める理由はまったくなかったということです。日本はアメリカの本土ばかりではなく、フィリピン、グアム、ハワイ、アラスカなどのアメリカ領にはまったく興味がなく、そればかりか、たとえば石袖や鉄鋼(くず鉄が中心)などの産業上の主要原料の75%をアメリカに頼っていました。
実に、日本は愚かというか、ノーテンキだったのです。日本を敵視している国に経済を支配する主要原料を頼っているという状態でした。
1970年に起きた石油ショックのとき、「エネルギーの安全保障」という話が出て、そのときに「大東亜戦争のきっかけとなったのはアメリカに石油や鉄を依存していたからだ」と言われましたが、事実は少し違います。
石油ショックのときの日本の輸入元だったアラブ諸国は日本と友好関係にあり、それがすぐに破綻するような状況にありませんでしたし、日本が中東に依存していたのは石油だけでした。これに対して、当時の日本は石油や鉄ばかりではなく、自動車、鉄鋼産業などあらゆる分野でアメリカに依存していました。だから日本とアメリカの関係が悪くなっても、アメリカが打撃を受けることはなかったのです。
日本のテレビや新聞の特徴は「大勢の人が同じニュースに接する」ことをとても大切にしています。また、ニュースの数が多く、そのために一つひとつのニュースを深く掘り下げることはあまりありません。
その結果、単に「資源の安全保障」という言葉だけが踊って、かつてアメリカの石油とくず鉄の禁輸によって大東亜戦争が起こったように、中東と日本の関係によっては日本が破壊するという議論が盛んになされましたが、まったく状況は違っていたのです。
しかも、戦争前の世界はナチス・ドイツが台頭し、日本と支那の関係も緊張していて、
世界中でいつ何が起こるかわからない状態にありました。
また、当時は国を左右するような産業はあまりなかったのですが、現在は、自動車、家電製品、パソコンなどあらゆる工業製品がどの国でも必須のものになっていますから、戦争前のように単に石油だけが禁輸されるとたちまち資源危機に陥るということもなかったのです。
いずれにしても、アメリカは日本と戦争する理由はありませんでしたし、日本も石油と鉄鋼という主要な資源をアメリカに信頼して全面的に依存していたのですから、実は「日米の間で戦争が起こる」ということはあり得なかったのです。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720251029