明治天皇の御心 「もし我が国がロシアに負けて滅びることになったら、先祖に申し訳が立たない」
それがちょうど、260年にわたる江戸幕府の時代を経て、幕末から明治維新という日本人の活力が最高に高まったときに当たったのは、日本にとって幸運と言うべきでしょう。
いずれにしても、ロシアは「日本が戦争を仕掛けてくるはずもない。どこまでも要求を通すことができる好機だ」と考えて、グイグイ押してきます。ついに、明治政府は「これは国家の一大事だ。日本が滅びるかどうかの瀬戸際だ」と思い詰めます。
この切迫した気分は、当時の明治天皇や伊藤博文のようなトップの人の言動によく表れています。明治天皇は、開戦の決定をした後、お一人で皇居の中に引き込まれ、「もし我が国がロシアに負けて滅びることになったら、先祖に申し訳が立たない」とはらはらと涙を流したと伝えられています。これは後に日本を批判する教科書で有名になった歴史家・家永三郎が書いています。
さらに、伊藤博文は戦費が足りないことを心配し、すぐに井上馨をアメリカやヨーロッパに派遣して日本国債を売って戦費を稼ぐことを決めます。「もし、日本陸軍や海軍が全滅してロシア軍が山陰に上陸してくるような事態になったら、この伊藤博文、一平卒となって鉄抱を担ぎ、日本国のために突撃する覚悟だ」と漏らしています。
明治天皇のお言葉といい、伊藤博文の決意といい、その当時の日本人の切迫した気持ちをよく表しています。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720250920