好戦的な民族と平和的な民族
つまり、人類には、人柄が良く争いを好まない民族と、自分の力が少しでも隣より強いとすぐ隣の土地をとりたがる戦争好きの民族がいることがわかります。「どちらが優れた民族か」というと、野獣としてはアーリア人のように隣の土地や人をとる民族が良いのでしょうが、人間としてはアイヌ人のほうがずっと優れているでしょう。
しかし残念ながら、人間は口では「戦争はしないほうが良い」とか「弱いものを大切に」と言いますが、実際には暴力を振るう民族のほうが戦争に勝って繁栄し、尊敬されるという歴史でした。かつてカスピ海の付近に住んでいた―つの民族だった戦争ばかりしているアーリア人が、ヨーロッパ、アメリカ、中東、ロシア、シベリアという広大な地域を支配していますが、戦争をしないアイヌ人は滅びる寸前です。
人類の歴史はこのようにまだ「暴力の強いものが上に立つ」という段階にいます。だから15世紀からヨーロッパの白人が有色人種の土地に進出すると、肌の色によって人種を差別するという概念が生まれます。もっとも下位には黒人が、その上に黄色人種が位置づけられ、黒人は白人の奴隷に、黄色人種は召使いになりました。
実際に日露戦争のときに示したように、オスマン・トルコがウィーンを攻めてから、日本海海戦に至るまで、白人の連戦連勝だったのですから、暴力の強い白人がトップになったのも致し方なかったのです。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720250927