五箇条の御誓文
アジア人の古い文章のうえ、長いのでイヤになったのではないかと思いますが、当時の日本に覇気があったことを示しています。
まず、「アジアの面積はヨーロッパの6倍、人口ではヨーロッパが3億人なのに、アジアの人口は6億人もいる。それなのに、アジアの国はヨーロッパ人に支配されて呻吟(しんぎん)している」と現状を分析し、それは「泣いても泣ききれない残念なことだ」という感情を示します。
そして、それを克服するには「学問を修めて知の力で回復するしかなく、先頭に立たなければならない。頑張ってくれ!」と結んでいます。
日本に住んでいると日本の偉い人がこのぐらいのことを言うのは当然と思うのですが、当時、抑圧されていたアジアの諸国の指導者は「我が身」のことばかり考えていて、自分の国の発展など考えていませんでしたから、さらにアジア全体のことなどを具体的に論じたり、やがてはヨーロッパを凌駕(りょうが)しようと決意して、具体的な方法を演説するなどということはまったくできなかったのです。
その点で、明治時代、明治天皇の「五箇条の御誓文」、福澤諭吉の『学問のすすめ』、そしてこの大鳥圭介の演説は、日本の発展のために学問、科学技術が大切なこと、そして日本全体のことを考え、不屈の精神でそれに当たるというもっとも大切なことを述べています。それは当時の日本人の優れたところを存分に出していると言えるでしょう。
参考に、明治天皇が神の前に誓った「五箇条の御誓文」を示します。
一.広く会議を興(おこ)し、万機公論に決すべし
二.上下(しょうか)心を一にして、盛んに経綸(けいりん)を行ふべし
三.官武一途庶民に至る迄、各其志を遂げ、人心をして倦(うま)ざらしめんことを要す
四.旧来の栖習を破り、天地の公道に基くべし
五.知識を世界に求め、大(おおい)に皇基を振起(しんき)すべし
議論は常に国家のために行うことなどのほか、これまでの晒習(古くて障害のある習慣)を止めて、知識を広く求めなければならないという共通概念が示されています。
ここまで、世界でも日本が特殊な国だったということを、いろいろな面から描写してきましたが、それは、なぜ日本が有色人種の中でただ一国だけ独立することができたのか、それには具体的な日本社会、日本人の気質、科学技術の力などがあったからで、決して偶然ではなかったことを示したかったからです。
この日本の財産は大東亜戦争の後にも発揮され、やがて敗戦の痛手から解放されて、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われるまでになりますが、それはさらに本著の後半に書くように、「大東亜戦争」「大東亜会議」、そして”東條英機”がいたことによるのです。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720250909