アメリカ独立戦争が”革命”の引き金に
加えて、フランス革命が起こった前後に、いろいろな事件が起こります。その一つが「アメリカ独立戦争」でした。フランスはアメリカが独立するのを嫌って介入しましたので、それで大きく戦費がかかりました。ルイ十六世時代の王室の贅沢三昧(ぜいたくざんまい)の費用がそれに加わり、国家財政はかなり逼迫(ひっぱく)します。税金の取り立てが厳しくなり、庶民には不満がたまっていました。
また、フランスがアメリカ独立戦争に介入したことによって、皮肉なことに「アメリカの思想」がフランスにも入ってきます。まさに、思想的に進歩していたはずのフランスに、できたばかりのやや野蛮なはずのアメリカの思想が逆輸入されたという感じです。
アメリカはイギリスからの「平民の移民」で国を作りましたから、貴族がいません。
そこで最初から「国民はみな平等」という思想しかなかったのが、フランス王室としては大誤算だったのです。
その頃のヨーロッパは「身分制のない地域」というのはありませんでしたから、「王様のいない社会」を考えることもできなかったのです。しかし、アメリカという国ができてみると、「王様がいなくても社会は成り立つじゃないか」ということに気づいたというわけです。
したい放題の王様、豪華な暮らしを続ける貴族、苦しい生活の平民———。不平等な取り扱いが普通だったヨーロッパの人たちには、全員が平等な新しい社会(アメリカ)を目の当たりにして、フランス革命が起きる基礎的な状況ができあがっていたのです。
また、イギリスの思想家ジョン・ロックが理論的に「革命によって、平等な社会を作ることができる」ということを示していましたので、これもフランス革命を起こす大きな原動力になりました。
歴史を勉強すると、「原因」は徐々に進みますが、「変化」は急激に来ることがわかります。「ローマは永遠だ」と思っていたら、突然、北のほうから民族が大移動してきて、ローマはあっけなく東西に分裂して衰退の一途をたどりました。ローマの支配下で過ごしていると、ローマはとても大きく、制度も安定していましたので、まさかローマの外側から人が入って来て、あえなく国が崩壊するなどと考えることはできなかったでしょ
う。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720250814