あらすじ
第1章からの原文の物語を、簡単に述べると、熊本第五高等学校を出て東京帝国大学に入学した小川三四郎が、東京で近代的な若い女性、美禰子に「池のほとり」で逢ってから、気になる「池の女」として接触が始まる。二人の交際が進む中で、美礁子は不可解な謎の言葉を掛けては三四郎を惑わせ、時には翻弄したりするので、三四郎は美禰子の心を掴むことができない。物語の終結は、美礁子が金縁メガネを掛け、髯を綺麗に剃った男とあっさり結婚してしまうことで、三四郎の淡い恋は成就せず「迷羊(ストレイシープ)」の言葉を残して物語は終る。
この小説では、先にも述べたように「語り手」によって、主人公・三四郎の視線から見た美禰子の反応や表情の変化、また三四郎自身の内面の葛藤などは、極めて詳しく読者に伝えられている。しかし、何故か美礁子の心理にはあまり触れていない。三四郎はうぶで、小心者だから、美禰子の心を読めずに思考が絶えず空回りして、ちぐはぐな行動を取ったり、すれ違いが生じて、読者をいらだたせてしまう。この漱石の技巧は見事なほど幾重にも施されている。
そこで、美禰子の本心はどうだったのか、言葉にして読んでみたらどうなるか…… 。
つまり、美禰子の目を通して、美礁子の言菓や表情に注目して、丁寧に読み返してみると、意外と隠れていた美禰子の心理が表而に浮かび上がってくるのである。
本書の構成は、第1章から各章師に「あらすじ」「ポイント」「解説」の項目を設けて進めることにした。その詳細は次の通りである。
①「あらすじ」では、物語の展開や筋の大凡を読者に理解してもらうために、主にサブ
ストーリー部分を扱うことにした。
②「ポイント」では、その卒のメインストーリー、物語上の重要なポイント、ハイライ
トシーンを取り出し、特に美禰子が絡む場面では彼女の心理を読み解きながら箪者の
コメントで説明を加えることにした。
③「解説」では、その章全体のまとめや箪者の考え、さらに登場人物のモデル・逸話な
ど、また当時の社会的背景を述べることにした。
本書の最大の特徴は、読者が最も知りたいと思われる部分を「終章」としたことである。
気楽に愉しむ漱石入門「三四郎」目次
はじめに
序 章 美禰子と明治という時代………………………11
第一章 汽車の中…………………………………………21
第二章 池の女……………………………………………39
第三章 病院の廊下で……………………………………61
第四章 広川先生の引越し………………………………87
第五章 団子坂の菊人形展………………………………113
第六章 運動会のあと丘の上で…………………………129
第七章 広田先生と原口画伯……………………………147
『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より R0720250326