「植民地帝国の審判者たち――リットン調査団と満洲国の逆説」
そのときの調査団の委員の感覚をつかむために、一部は繰り返しになりますが、当時のアジア、アフリカの状態をまとめておきます。
ー アジア地域‥‥イギリス、フランス、オランダ、アメリカ、ロシア、ポルトガルが中東も含めてほぽアジアの全領域を植民地か信託統治などの形で支配されていた。
二 アフリカ地域……西ヨーロッパのほとんどの国が1885年にベルリンで行われた「アフリカ分割会議」でヨーロッパ諸国に分割されていた。
このような委員会メンバーは、自らの国が植民地や愧儡政権を持っている国の人ばかりです。そのメンバーが日本の愧儡政権と言われた満洲国が適切かどうかを判断するということですから、もし満洲国が「良くないこと」であるのなら、「良くないことをしている人たちが、良くないことを判定する」という奇妙な調査だったのです。それが委員会開催を求めた中華民国の狙いでもありました。
ところが、調査は誠実に行われました。リットン調査団は、日本、支那、そして満洲をまわってヒアリングや現地調査を行い、極めて精密で、公平な事実の整理と解析を行いました。そして、「日本は満洲国を放棄し、国連統治にして、日本が実質的に運営する」という結論を出します。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720251013