米軍が東條英樹を救命した理由
アメリカ軍の意図は三つあったのです。
第一は東條に「二度死ぬ苦痛」を味あわせたかったこと、
第二に東條は犯罪人だから「自決は許さぬ」ということ、そして
第三に「東條は臆病だ」という噂を流して日本人に”東條憎し”という感情を呼び起こさせること
でした。
アメリカ軍の意図は成功しました。東條は後に絞首刑になるわけですから、死ぬ苦痛を二度も耐え、犯罪人として処刑され、さらには同胞の日本人にすら裏切られたのです。
東條の自決失敗のニュースは事実と大きく違うかたちで、日本のマスコミによって報じられました。「なぜ、日本刀を使って腹を切らなかったのか」「なぜ、小さな短銃を使ったのか」「他の陸軍幹部が自決しているのに、勇気がなかったのではないか」などです。
でも、東條が自決する状況・環境は、他の幹部とは比較にならないほど困難だったのです。
それでも東條は、東京裁判(実際には「東京リンチ」と呼ぶべきですが)で、正々堂々「日本は武力では負けたが戦争は正当である」と主張し、裏切る幹部がいる中で最後まで自分をまったく弁護することなく、戦争の正当性を主張し続けたのです。
ところで、東條よりもっと酷い取り扱いを受けたのが、山下奉文(やましたともゆき)陸軍大将でした。東
條の処刑については、彼の首相時代のことが問題になりましたが、山下は政治家ではなく、純粋な軍人(武将)でした。
山下は正規軍の戦いでイギリス軍が守るシンガポール要塞を陥落させ、大東亜戦争の諸戦を有利に運び、アジアやアフリカの諸国に大きな希望を与えました。そして、イギリスのシンガポール司令官を、国際法にのっとって捕虜として処遇しました。
しかし日本が負けると、その当時フィリピン司令官だった山下は逮捕され、裁判という名のリンチにかかり、絞首刑にされました。その際アメリカ軍は、シンガポールで陥落させられたイギリスの司令官を立会わさせました。彼に山下が命を落とす様子を見せて「仇討ち」をさせたのです。まさに、人格最低の人たちが行う報復だったと言えます。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720250725