フランス国歌とルジェ大尉
フランス革命でも、新しい時代を作るために登場したのがナポレオンです。そして、そのナポレオンの登場という人類の歴史の序幕を演出したのが、後にフランス国歌になる「ラ・マルセイエーズ」を作曲したルジェ・ド・リール大尉でした。
その時期、まだ革命は大きな流れにならず、国王ルイ十六世は生きていました。ですから、状況は流動的でした。外国との関係でも、革命を阻止しようと干渉してきたオーストリア皇帝とプロイセン王に対して宣戦が布告され、フランスは挟撃されて危機に陥り、危機を感じた市民は「自由の子よ、武器を取れ!戦旗はひろげられた!」という興奮の中に入ろうとしていました。
長い封建制の時代を破るエネルギーが次第に沸き返り、その熱気がパリに集まっていました。今から見ると無計画に進んだフランス革命は、時代の重みがパリ市民を駆り出し、その熱気はやがてルジェ大尉が住んでいたパリ郊外のストラスブールの町にも伝わって来たのです。
ストラスブールのディートリッヒ市長に軍歌の作曲を依頼されたルジェ大尉は机に座りながら、たまにしかしない作曲に取り組んでいました。戦争が始まり、進軍が開始れると軍歌の―つも必要だろう、それもこれまでのような傭兵が歌う古くさいものではなく、新しい自由のもとで、市民の軍隊の前で演奏されるにふさわしい曲が必要だと市長は考えたのです。
ルジェ大尉は趣味で曲を作ることはありましたが、専門の作曲家ではありませんでした。軽い気持ちで市長の頼みを聞いたものの、現実には詩も曲も沸いてこなかったのです。曲が浮かばない中で、螺旋(らせん)階段を上りながらルジェ大尉は、突然、フランスの畑が外国の軍隊に踏みにじられて、肥料の代わりにフランス人の血が畑に注がれ、農民が叫ぶ声が聞こえたと伝えられています。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720250817