駐日アメリカ大使のタウンゼント・ハリスの日本観
後に日本の開国に大きな影響を与えた駐日アメリカ大使のタウンゼント・ハリスは、次のように書き残しています。
「彼らはみんなよく肥え、身なりも良く、幸福そうである。一見したところ、富者も貧者もいない。---------これがおそらく国民の本当の幸福の姿と言うものだろう。私はときとして、日本を開国して外国の影響を受けさせることが、果たしてこの人々の幸福をもたらすことになるかどうか疑わしくなる。
私は質素と正直の輝ける社会を日本に見出した。生命と財産の安全、人々の質素と満足とは日本の顕著な姿である」
そんな感想をハリスが持ったのもうなずけます。
ハリスやヨーロッパの人たちの時代の労働者は、ほぼ同じ時期にイギリスのフリードリヒ・エンゲルスが描写したようにまったく違ったのです。
「貧民には湿っぽい住宅、床から水があがってくる地下室か、天井から雨水が漏ってくる屋根裏部屋が与えられる。貧民は粗悪で、ぼろぼろになった衣服と、粗悪で混ぜものをした酷い食料が与えられる。
貧民は野獣のように追い立てられ、休息も、安らかな人生の楽しみも与えられない。
貧民は性的享楽と飲酒の他の楽しみは奪われ、酷使される」これはちょうど日本が開国した頃のイギリスの状態をエンゲルスが描いたものですが、労働者や農民のような社会の多くの人たちがこのような悲惨な生活をしていたヨーロッパや、さらには人間として扱われなかったアメリカの黒人奴隷と比較すると、日本の農
村、漁村、そして職人は幸福で豊かに見えたのは間違いありません。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720250829