ロシアと日本の激突!!
このロシアの動きに「普通の国」として反応したのが、唯一、日本だけでした。ロシアが釜山の横に軍港を造るということは日本の目と鼻の先にロシア艦隊が来るということを示していますから、明治が始まったばかりの日本政府が「これは一大事だ」と感じたのは当然のことでした。
日本国内の議論は沸騰し、ロシアの南下をなんとしても防ぐ必要があるということになり、戦争の気運は高まっていきます。しかし、なんと言ってもロシアは当時の世界では強国であり、領土はとてつもないほど大きく、かつロシア陸軍と言えば世界最強でしたから、日本が対抗できるような国ではないと思われていました。
ロシア側ももちろん同じ感じでした。もともと有色人種の国が白人の国に対抗できるはずもなく、東洋の小国で後ろ盾もない日本など「戦う対象ではない」と思っていました。事実、大国と言われていた清王朝ですら、無抵抗で満洲を自由に使って良いと言うぐらいですから日本が刃向かうことは考えられなかったのです。
しかし、あまりに強引なロシアのやり方に、ニコライニ世の親戚筋に当たるドイツの皇帝ヴィルヘルムニ世が心配して、「そんなに強引なことをすると戦争になる可能性がありますよ」と忠告したのですが、ニコライニ世は「余が戦争をしたくないのだから、日本と戦争になるはずもない」と答えています。
このニコライニ世の言葉に、当時の白人の傲慢(ごうまん)な心と、「白人が秩序を決めるのだ」という自信が表れています。「清王朝も李氏朝鮮も、白人の大国であるロシアが無理難題を出しても抵抗しなかったじゃないか、ましてさらに小さな日本などという国が抵抗するはずもない」と高をくくっていたのです。
実に不思議なことで、15世紀から世界を侵略してきた白人は、東の外れ、つまり彼らから見ると土地の果てに当たるところに、「白人の侵略に本格的に抵抗してくる有色人種の民族がいる」ということは考えられないことでした。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720250919