高血圧にも「合理性」がある
先ほどの説明を聞くと、「やはり高血圧はよくないのでは?」と思うでしょう。では、なぜこの考えがダメかを説明しましょう。
「血圧を下げて血管を流れる血液の量を減らしたときに、何が起こるか」ということが考えられていないことが問題です。
血液というのはまず全身に栄養を送ります。それから病気を治す白血球なども送っている。がんにならないように制がん物質を送るということもやっています。
ほかにも血液の役目はあって、たとえば風邪をひかないように免疫系の細胞を送るというようなこともやっているわけです。
60歳の人は血管が硬いわけですから圧力を上げないと血液が全身に行き渡らないので、心臓は血圧を上げて150とか160にする。そうすると血管ももろくなっているから破れやすい……。
しかし、「それだから血圧を下げなさい」となるととたんにおかしなことになってきます。
もしも心臓に「心臓さん、なぜそんなに血圧を上げるのですか。圧力を上げたらこの人は脳出血で死んでしまうかもしれないじゃないですか?」と尋ねたとします。
すると、心臓は「たしかに年を取ってきたので血管にまつわる危険性はどうしてもあります。でも、だからといって血圧を下げれば全身に血液が行き渡らないからがんにもなるし、風邪もひきやすくなります。脳にはたくさんの血を流さなければならないのに、それが滞ると物忘れをしたり、酷いときには認知症になりますから……」と答えるでしょう。
つまり、心臓が血圧を上げてでも血液を全身に送ろうとしているのは「 血圧が上がって血管が破れる危険性」と「血の流れが悪くなってがんになったり風邪をひいたり、肺炎になったり、頭がボケたりすること」を見比べ、そういったリスクを比較したなかでのベストな選択をしているのです。
しかし、こういった説明をしたメディアはあったでしょうか。大手マスコミはほとんどの場合、「血圧を上げると身体に良くない。だから血圧を下げなさい」というところで止まったままです。
ここまでは「誠意はあるが、アホな医者」の見解ということかもしれません。ところが世の中には、これに乗じて「お金が欲しい」という人たちが現れるのです。
典型的なのは、製薬会社です。血圧の基準のないときは血圧降下剤の市場というのはだいたい100億円ぐらいでした。
ところが、血圧の基準をいったん160以下と決めたらそのとたんに3000億円になって、さらにそれを10落として150に決めると6000億円。140にすると9000億円にまで増えていったのです。
『フェイクニュースを見破る 武器としての理系思考』武田邦彦 (ビジネス社刊) R060606 P101