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yymm77

日本を潰そうとする強大な勢力に、対抗するために、、、、

野々宮君が大学構内を案内 『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦

野々宮君が大学構内を案内



すると突然向こうて自分の名前を呼んだものがある。見ると野々宮君が石橋の向こうに長く立っている。「君まだいたんですか」と言う。三四郎は石橋の上まで来て「ええ」と答えた。
野々宮君は暫く池の水を眺めていたが、右のポケットに手を入れて何か探している。ポケットから半分はみ出した封筒が見えて、女の字が書いてある。しかし、探し物は見つからなかったのか、またぶらリと手を出した。

「今日は実験を止めにしてこれから本郷の方を散歩して帰ろうと思うが、君も歩きませんか」

三四郎は快く応じた。二人は丘の上へ出た。野々宮君はさっき女の立っていた辺リでちょっと留まって、赤い建物と、水の落ちた池を見渡して、

「ちょっといい景色でしょう。あの建物の角度の所たけが少し出ている」

三四郎は野々宮君の艦賞力に驚いた。
女(美禰子) が立っていた場所で野々宮君もいい最色だと言う。美禰子はこの景色を背娯に自分をモデルにした絵を描いてもらおうと思っていた。

野々宮君は

「それから、この木と水の感じがね。東京の真ん 中に あるんだから....。静かでし ょう。こう いう所でな いとだめですね。学問をやるには ....。僕は穴倉の生活をやっていれば済む のです。近頃の学問は非常な勢いで動いている ので、少し油断するとすぐ取リ残されてしまう。これでも 当人の頭の中は激烈に 働いているんですよ」
と言いな がら空を見た。空にはもう 日の光が乏しい。青い空の上皮に白い薄雲が筋交いに長く浮いている。
三四郎は仰いて半透明の雲を見た。野々宮君は、「あれは、みんな雪の粉です。下から見ると動いていな いが 、あれで地上の台風以上の速カで動いているんです。君ラスキン(注1)を読みましたか 」
三四郎は憮然として読まないと答えた。野々宮君はしばらくして、
「この空を写生したら面白いですね。原口にでも話してやろうかしら」と言った。三四郎は、原口という画家を知らなか った。




本郷三丁目の交差点にある洋品店「かねやす」

『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より  R0720250413
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