◎ これまでと、これから
少し前、私たちの生活は貧乏だったので、少しでも豊かになろうとしました。
テレビ、冷蔵庫、洗濯機を持ちたいと強く希望した時代も、たった今から40年ほど前で、その時には、家電製品を「三種の神器」とまで呼んで、大最生産を期待したのです。
でも、それが間違っていたのではありません。その時はその時で真剣に考え、ベストな道を探したのです。
それでは、大量生産の時代と、環境の時代で何が違うのでしょうか?
私はある時に中学生向けの副読本を書いたことがあります。その時に、生産の時代と環境の時代の違いを次のように表現したのです。
「‥‥‥外で思い切り暴れて泥だらけになった君が家に帰ってくる。そして、すぐシャワーに入る。
やがてキレイになった君はさっぱりした体でお母さんが作ってくれた夕ご飯をほおばる‥‥‥それが生産の時代だ。
でも、環境の時代は違う。君が泥だらけで帰ってきてシャワーを浴びる。君の体はキレイになったけれど、君の体についていた汚れはシャンプーとともに下水に流れ、やがてそれを魚が食べる……それを考えるのが環境の時代だ。」
この話は石けんと洗剤、そしてエコたわしを選ぶときに役に立ちます。
つまり、石けんは洗剤を使いすぎてしまう人には、良いかも知れません。でもそれは自分の肌だけを考えたことで、さらに、石けんは汚れを落とす力が弱いため、余計に使わなければならないので、下水に流れた石けんは、下水に沈殿し、ドブを汚していきます。石けんシャンプーや石けんリンス、粉石けんなどを使う人は、洗剤よりはるかに多い量を使わなければなりませんから、生き物をそれだけ多く殺すことになりますし、下水はさらに汚れるでしょう。
またエコたわしを使えば、今度は石けんより溶けにくいので、自然には「あなたが汚した油脂」を抱いたものがずっと残ることになります。
「環境の時代」とは、どういう時代でしょうか?
それは、「自分のことだけを考えない」、「目に見えるところだけを考えない」ということでもあります。
レジ袋を追放するときに、レジ袋だけを考えて、その代わりに使うバッグやゴミ袋のことは考えない、ペットボトルをリサイクルするときに、ペットボトルの回収に使うトラックの燃料や人件費などのことは何も考えない‥‥‥それはまさにこれまで私たちが環境を汚してきた考え方そのものなのです。
『家庭で行う正しいエコ生活』武田邦彦 平成21(2009)年 講談社刊より 20251221
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