責任逃れをする人たち
三四郎は気がついたように、
「広田先生や野々宮さんはさぞ僕らを探したでしょう」
と言った。美禰子は冷ややかに、
「なに大丈夫よ。大きな迷子てすもの。貴任逃れをしたがる人だから、丁度いいでしょう」
と言った。
「誰がですか。広田先生ですか、野々宮さんてすか」
と三四郎が聞くと、美禰子は答えなかった。三四郎は、
「もう気分はよくなりましたか。よくなったら、そろそろ帰りましょうか」
と聞いたが、美禰子は三四郎の顔を見て黙ったままである。
三四郎が後に残してきた仲間のことを心配すると、美禰子は
「私達は大きな迷子ですもの。あの人たちは責任を逃れたがる人だから、丁度いいでしょう」
と言う。美禰子は、はぐれても心配してくれない冷淡な野々宮にすっかり気分を悪くしている。むしろ、自分を心配してくれる三四郎に優しさを感じた。美禰子は無言で、このままもう少し、三四郎と二人でいたいと顔で示している。三四郎は美禰子を気遣って
「帰りましょうか」
と言ったが、美禰子は帰りたくなかった、
気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より R0720250518