衣食住など、家のことはすべて妻が管理
家のこと、特に衣食住に関しては妻が管理することになっていました。
たとえば、「衣」です。江戸時代の武士は自分の衣服のある場所すら知りませんでした。妻は用意した着物を着せて夫を仕事場に送り出しました。どこに出しても恥ずかしくないように、との配慮からです。
子供の世話についても同じことでした。とにかく家庭内のことは女性がすべて管理していたのです。
「食」に関してはもっと極端でした。先にも挙げた「男子厨房に入らず」は、ヨーロッパなどでは「夫のほうが偉いという意識があるので、男は台所仕事などしない」という解釈となりますが、日本では「妻に対する尊厳が高いので女性の仕事に男は口を出してはいけない」という意味になります。
江戸時代、妻を亡くして身のまわりを女中に任せていたある旗本が、その女中が暇を取って実家に帰っている間、「男子厨房に入らず」を徹底して餓死してしまった、という逸話も残っています。
女性が食事をつくるのは「女の義務」だと考えるヨーロッパと、「女の権利」だと考える日本とではやはり大きな違いがあると言っていいでしょう。
「住」についても同じことです。家を建てるのは夫の役割ですが、「おかみさん」「山の神」という言葉もある通り妻が家の運営の中心になります。侍の家は別にして、日本の家は夫の部屋というものはない造りになっていました。
現代の感覚で言うと、夫は妻から派遣される「派遣労働者」です。着るものからスケジュール管理からすべてのマネージメントを妻にやってもらい、夫は外に出て少しでも合理的に仕事を進めることに身と心を尽くします。そして賃金は全額を妻に渡すという、世界的に珍しい慣習が日本には生まれました。
「夫婦は運命共同体である」という共通認識があるからこそ、日本社会の男性と女性は、それぞれに違う受け持ちの分野があるということを大事にしてきたのです。
かけがえのない国――誇り高き日本文明』 武田邦彦 ((株)MND令和5年発行)より
R051221 62 R061010