
第五章 団子坂の菊人形展

あらすじ
野々宮の家を訪ねる
門を入ると、この間の萩が、人の丈よリ高く茂って、株の根に黒い影ができている。よし子はこの萩の影にいた。三四郎は萩とすれすれに立った。
よし子は縁から腰をあげて
「お入リなさい」
と声を掛けたのて、三四郎は萩を通リ越して縁鼻まできた。よし子は
「お掛けなさい」
と言う。
「野々宮さんはまだ学校ですか」
と聞いた。野々宮は夜遅くしか帰ってこないので昼間はよし子一人てある。よし子は絵を描いていた。
暫くして三四郎は
「あなたか里見さんの所へお移リになるのは本当ですか」
と聞いた。よし子は
「まだ決まっていませんが、そうなるかも知れません」
と言った。三四郎はよし子との会話で次のことがわかった。兄野々宮と美禰子の兄里見恭助が親しい友達て共に広田先生の教え子てあること、恭助は法学士であること、美禰子には兄が二人いて上の兄は広田先生と親しい友達たったが早く亡くなったこと、また美禰子の両親も早く亡くなリ、今は兄恭助と美禰子の二人たけであることなどである。美禰子は広田先生の家に出入りして英語を習っているそうだ。よし子は水彩画を描き続けている。
美禰子はよく大久保の家にも訪ねてくるという。
美禰子がよく大久保の家に来るのは、野々宮との結婚を意識して、将来の新居の下見を兼ねているのかも知れない。
よし子は絵を描き続けていたが、とうも旨く描けずに途中で止めてしまった。よし子は、お茶を出しましょうと言って縁側に出してきた。三四郎はよし子と話していると気分的にくつろいている。よし子の話では兄は理学者で学問好きだから忙しい人だが、それでも妹の自分をよく可愛がってくれるので、日本中で一番良い兄であると自慢している。三四郎は何かよし子の無邪気なところがおかしかったが、ともかく敬愛の念を抱いて帰った。下宿に戻ると葉書が届いていた。「明日、午後一時頃から菊人形を見に参りますから、広田先生の家までいらっしゃい。美禰子」とあった。
その字が、野々宮さんがポケットからはみ出していた封書の上書きに似ていたので、何度も読み返して見た。
気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より R0720250513