満洲は植民地にしたほうが良かった
イギリスとかフランスといったヨーロッパの国なら、「チャンス!」とばかりに満洲を日本の植民地にしたでしょう。しかし、日本には「他国をとる」という思想はありませんでした。
日露戦争と第一次世界大戦を経て、日本が獲得したのは、台湾、朝鮮、遼東半島、千島などでしたが、台湾、千島、樺太などは人がほとんど住んでいないか、国がなくて部族がいるだけでした。
もともとある国と戦争をするとか、ある国を占領するというのは、相手の土地に「国」がある場合です。人がいても部族の段階のときには、国との間では戦争にならず、大部分は、そのまま押さえ込まれてしまいます。国というのはそういうもので、国がなければ裸同然ということでもあります。
ですから、日本から見ると、台湾、千島、樺太やドイツから奪った太平洋の島々も、占領ということではありません。これは600万人近くのアメリカン・インディアンを虐殺してアメリカ合衆国を作ったときも同じで、メキシコという国との戦争はありましたが、インディアンとの関係は戦争とか、占領ということでは整理されていません。
また、朝鮮併合(韓国併合)はどちらかというと「朝鮮の要請で併合した」と言ったほうが正確ですし、中国の遼東半島も、当時の中華民国の支配地域ではなかったので、これも占領ではありませんでした。
「支那という国はない」「その時代に王朝の勢力が及ぶところが支那」というように日本とはまったく違う国の概念であることをいつも念頭におかないと歴史を正しく理解することはできないのです。
だから、日露戦争に勝った後、第一次世界大戦の前後で、日本は満洲を占領してしまえば歴史は簡単になり、後の満洲事変などのゴタゴタに巻き込まれることはなかったでしょう。アメリカのハワイ占領、フィリピン侵略などと同じ手法をとれば良かったのです。
でも、アーリア人の世界(白人の世界)では「他の国を奪う」という考え方は普通でしたが、アジアの海洋民族の考えでは「自分たちは自分たちの土地に住む」ということでしたから、日本は満洲をとらなかったのです。
もう一つ、満洲の情勢が複雑だったのは、支那の奥地には共産党政権がいて、中原と呼ばれる中央には中華民国、そして、そこら中に軍閥と呼ばれる地方の独立政権があり、満洲の北には共産国家のソ連がいました。だから、満洲には、共産主義の権力、力不足の中華民国、もともとの満洲の軍閥、それに遠慮がちな日本軍というように、さまざまな政権が乱立していたのです。
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)
『ナポレオンと東条英機』武田邦彦 ベスト新書(2016)より R0720251010