本当にダイオキシンは人体へ悪影響を与えるのか
かくいう私もそうでした。1995年ごろになって周りがみんなダイオキシンの研究費をもらっているので、私も研究費をもらおうかなと思ってダイオキシンの本を何冊か買って読みました。
しかし、そこでビ ックリしました。当時ベストセラーだった何冊かの本には、人間に対するダイオキシンの毒性データがまった<っく示されていなかったからです。
「健康被害のデータがゼロなのに、なぜこんなにテレビで騒いでいるのか?」と非常に奇異に感じ、関係学会などにも顔を出して聞いてみたのですが、専門家の間ではダイオキシンの毒性についてそれほど議論がなされていない。
しかし自分が研究する限りは、本当にダイオキシンが毒物でなければやる意味がありません。
研究費がもらえるからというだけではいけないので、それから本格的に論文を調べ始めました。考えてみれば最初に私の読んだ本は一般向けの本で、専門書ではありませんでした。
そこで1999年から2001年までに連続的に出た論文、だいたい100本ぐらいを読んでみたのですが、その結果、人間に対する毒性は非常に弱いということがわかりました。
テレビや新聞の記者は私のように科学論文までは読んでいなかったかもしれませんが、それでも私が最初に読んだうちの1冊は岩波新書だったように記憶しています。
そういう普通の本ですから、これくらいは当然テレビ の制作者や新聞記者も読んでいたでしょう。
そこには人間に対する毒性データがないのは明らかです。少しでも科学の知識があれば、毒物というものは種によってす ごく異なるので、人間とサルでも効果は違いますし、哺乳動物でなければ全然効果が違ってくるということは知っているはずです。
しかしそれがそのまま、あんなに大きな社会的問題になったのはどうしてなのでしょうか…… 。
日本には240万人の技術者がいます。よく「科学のことはほとんどの人が理解していませんから」という人はいますが、少なくとも240万人の人は科学の基礎的な部分についてはよく知っているわけです。
工業高校、高等専門学校、大学の工学部、理学部あたりで教育を受けた人はそのような素養を持っているのですから、そういう人たちがこれを読んだときに、その全員とは言わずとも半分ぐらいは「ちょっとこれはおかしいな」というふうに思うはずです。
新聞社やテレビ局でも技術系の人は何人もいて、放送するときにはいろいろと多方面から検討をするでしょう。
そのときにダイオキシン関連の書物に人間の毒性データが書かれていないとなれば、これを放送して大丈夫だろうかということを言う人は必ずいるはずです。
「政府が言っているじゃないか」というようなことだけで報道に至るとは考えられません。それなのに誰も気づかなかったというのは実に奇妙な話です。
では、これはどういうことな のでしょうか。
それはつまり、マスコミが毒物だといってはやし立てて、それを研究費の欲しい大学の先生方がバックアップし、それに評論家がついていったという構図に過ぎなかったのです。
そうしたダイオキシン騒動の全体像を私が理解したのは1998年ぐらいのことでした。
しかしそのころには、各自治体が「ゴミの焼却炉をどうするか」ということでものすごく大きな騒ぎになるなど大きな社会問題にまで発展していました。
それまでは、家庭用小型焼却炉などに市町村が補助金を出して「市のゴミの焼却の負荷を減らすためにできるだけ家で焼いてください」などと呼びかけていたわけですから、こうした方針の転換は予算の問題などいろいろな障害が生じることになります。
しかし人間への毒性については誰も指摘しないまま、テレビ朝日を中心としてどんどんダイオキシンヘの恐怖が煽られていきました。
私がダイオキシンに関する論文を読んだところ、1972年に動物に対する毒性がわかったものの、人間に対して急性の毒性がほとんど見られないということはすぐにわかっていました。
そこで問題は慢性の毒性ということになったのです。たとえば、胎児への影響であるとか発がん性であるとか、そういった問題の有無について研究がなされるわけですが、1999年から2001年にかけて人間に対する慢性毒性の研究データが出てきたものをみると、毒性が非常に弱いということがわかりました。
それで、そのころに私がテレビで「ダイオキシンは無毒です」と言おうとしたら、そこにいた某評論家に「武田先生、無毒というのはちょっと言い過ぎでは? どんなものでも少しは毒性があるでしょう」と言われたことがありました。何かダイオキシンは毒物だと言わなければいけないという同調圧力があったのです。
それで私も「微毒だ」と言ったのですが、この意味するところは「砂糖や塩でも摂り過ぎれば身体に毒になる」というのと同じようなことです。
『フェイクニュースを見破る 武器としての理系思考』武田邦彦 (ビジネス社刊) R060603 P089