広田先生は偉大なる暗闇
それから広田先生の話になった。
名前は「萇(ちょう)」というそうだ。高等学校の先生て、もう十二、三年になる。独身を通しておリ、先生独特の理論を持っている。万事、頭の方が先行している。その代わリ西洋の写真を研究しているし、哲学者である。著述は何もない。時々論文を書く程度だが、世間では反響がない。世間を知らないし、「偉大なる暗闇」だ。自分では何もやれない人であるが、与次郎はこれから大いに活動して先生を大学教授にしてやろうと思っていると言う。真面目である。帰リに引越しの時は是非手伝いに来てくれと三四郎に頼んだ。与次郎は十時頃に帰った。
三四郎は、母の手紙を出して読んでみた。新蔵が蜂蜜をくれたこと、年貢米のことなど、色々書いてあるが、三四郎は昔のことを思い出していた。
その他、三四郎の写真を送れとか、三輪田のお光さんを嫁に貰ってくれと相談があった母親もその方が良いということが書いてあった。
『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より R0720250503