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yymm77

日本を潰そうとする強大な勢力に、対抗するために、、、、

三四郎と女が名古屋で同宿 『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦

三四郎と女が名古屋で同宿

三四郎は前の停車場で買った弁当を食べ出した。汽車が動き出してから例の女は立ち上がって車室を出て行ったが、やがて帰ってきた。三四郎は弁当を食べ終わると隣の窓から風に逆らって空の弁当の折をカ一杯放リ投げた。
しばらくすると女が「名古屋はもう直ぐでしょうか」と声をかけてきた。見ると女は腰を曲げて‘顔を三四郎の傍まで寄せている。三四郎は女の馴れ馴れしい態度に驚いた。女は「あなたも名古屋でお降リでしょう」と訊ねて、名古屋に着いたら迷惑でも宿屋に案内してほしいと言い出した。三四郎は知らない女だから躊躇したが、断る勇気もなく、いい加減な生返事をした。
名古屋に着いてから、二人は汚い看板の宿に入った。二人はそのまま部屋に通されて、下女からお風呂をどうぞと言われた時には、今更この女は連れではないと、言いそびれてしまった。三四郎はお先へと挨拶して風呂場に出て行って‘風呂桶の中に飛び込んだ。こいつは厄介なことになったなと思っていると、風呂場の戸を半分開けて「ちょいと流しましょうか」と例の女が言う。三四郎は大声て「いえ沢山です」と断った。しかし女は出て行かない。かえって帯を解いて入ってきた。別に恥ずかしい様子も見えない。三四郎は忽ち湯ぶねを飛び出して、そこそこに身体を拭き、座敷に帰った。
驚いて座布団に座っていると、下女が宿帳を持ってきた。三四郎はやむなく宿帳に

福岡県京都郡真崎村小川三四郎 二十三歳学生
と正直に書いたが、女の欄には、
同県同郡同村 同姓花 二十三歳

とデタラメを書いて渡した。
やがて、下女が布団を延べにきた。一枚しか持ってこない。三四郎は、「失礼ですが、私は神経質で、他人の布団に寝るのは嫌だから....。少し蚤よけの工夫をしますから御免なさい・・」
と言って、布団の中央辺リでシーツの仕切リ線を持えた。三四郎はタオルを自分の領域に長く敷き、その上で細長く寝た。その晩、三四郎は狭いタオルの外には手も足も出さなかった。女も壁を向いてじっと動かなかった。夜が明けて、朝の膳に向かった時、女はにこリと笑って「昨夜は蚤は出ませんでしたか」と聞いた。
勘定をして、駅についた時、女は関西線で四日市の方へ行くのだと話した。女は改札まて送ってきてから、三四郎の顔をじっと眺めて、落ち着いた様子で「あなたはよっぽど度胸のない方ですね」と言ってにやりと笑った。三四郎は狼狽してプラットホームの上に弾きだされたような思いがした。

『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より  R0720250401


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