◎日本の伝統を壊すのには手を貸したくない
日本人はご飯を食べるのに、お茶碗を使います。そのお茶碗は、毎回、使い捨ててリサイクルに出すでしょうか? 誰も、朝ご飯を食べたらお茶碗を割ってリサイクルに出し、昼ご飯もまた使ったお茶碗をリサイクルに出したりはしません。
「環境のためにリサイクルをしましょう」と言っている人は、なぜお茶碗はリサイクルしないで、ペットボトルはリサイクルしているのでしょうか?
それは誰もが本当はリサイクルしないで、繰り返し使った方が良いことを知っているからです。
ところで、私はペットボトルのリサイクルは日本の「物作り」の精神を破壊すると思っています。
かつて、お茶碗職人はそれほどお金持ちではなく、一流大学を卒業しているのでもありませんでした。それでも、職人としてのプライドと物作りの魂は持っていたのです。
お茶碗職人は自分の作ったお茶碗を買いに来たお客さんに「大事に使ってください」と言って新聞紙にくるんで手渡しました。買った方も、500円だからとか、安いからという理由ですぐ捨てたりはしませんでした。
どんなに安いものでも、物には魂がある…•••そう考えるのが日本人です。大切にお茶碗を使い、うっかり落として割ったときしか捨てません。
それに対してペットボトルはどうでしょうか?
ペットボトルの生産をしている会社は大会社。そしてそこの社長さんは一流大学を出て、年収は3000万円をくだらないでしょう。それでも「物作り」の精神は失い、自分の儲けだけを考えています。「マネーがすべて」なのです。
だから、ペットボトルのような素晴らしいボトルを作っても、決して「大切に、繰り返し使ってください」とは言いません。もしみんなが大切に使えば、儲けが減るからです。
なぜ、お金持ちでもないお茶碗職人が「大切に使ってください」と言うのでしょうか?
彼はもしお客さんがドンドン割ってくれれば、お茶碗が売れて生活が楽になることは知っています。でもそれより貧乏をしても自分が作った物を大切に使ってほしい、その心が環境を守るのです。
『家庭で行う正しいエコ生活』武田邦彦 平成21(2009)年 講談社刊より 20251202
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