◎いまの資源を使うことで次の価値が生み出せる
武田: もともと珊瑚礁も石炭も石油も鉄鉱石も、全部前の生物の死骸です。前の生物の死骸が使える間は死骸を使うし、使えなくなったら別のものを使う。人類は、そういうふうにやってきているわけですから。いまになって突然、石油を節約するなど、「あんた死骸使うのをやめろ」というのは、納得できないんですよ。
先日宇部市の渡辺祐策{参考・わたなべ•すけさく一八六四(元治元)年一九三四(昭和九)年日本の実業家、政治家。宇部興産の創業者]さんという人の記念館(渡辺翁記念会館)があって、そこに行ってきました。「こんなえらい人がいたのか」と感心してきたんです。
渡辺祐策さんは、江戸時代の末期に、いまの宇部市の片田舎の海岸に生まれた人です。
その人が一八九七年に沖ノ山炭鉱を創業した。後の宇部炭鉱です。それで巨万の富を得たのです。その人がこういうことを言っています。
「このまま石炭を掘るとなくなる。それを節約すると少し延びるが、せいぜい五年延びるか十年延びるくらいだ。孫の世代のプレゼントになるわけではない。だから私は石炭を節約せずに、石炭の富を孫の時代の価値に投じる」
つまり、石炭で得られる富を孫の時代に価値を生み出すような技術に投じるというわけ配です。そして彼が、孫の時代に価値を生み出すと考えたのが化学工業です。それで宇部興産ができた。
宇部の炭鉱群は複数の資本が参入していましたが、一九六七年までにはすべて閉山されています。渡辺さんのイノベーションによって、宇部興産ができ、その後も宇部地域は炭鉱群の閉山にかかわらず、経済を維持しています。
日下: いまの資源をどんどん使って、その富を新たな技術に投資することが次の世代につながることだというわけですね。
武田: また、技術という面から見ると、日本が二十世紀の後半に繁栄した、いろんな理由があるんでしょうけど‘―つの理由はやっぱりエネルギー源が石油だったからというのが大きい。
日本というのは国土が狭いだけに、集中的な出力を持った動力が必要だということです。
化石エネルギーに比べて、水力とか太陽とかの自然エネルギーとなると、どうしても国土の広さに比例しがちになる。
つまり、もしも、石油という非常に高出力のものから自然エネルギーのように低出力のものに移ると、国土面積によってそのドライビングフォース(推進力、原動力)が決まってしまうので、高出力活動はできなくなるということです。ですから、私は自然エネルギーは限界があると思っています。
たとえば、スウェーデンは五〇%水力発電でまかなっています。なぜ、スウェーデンがそれほど水力発電ができるかといえば、国土面積に対する人口は、日本の十八分の一くらいです。ですから、もし、水力だけに頼っていたら、日本はスウェーデンの十八分の一の生産性しか持てないことになる。だから、日本は集中したエネルギーのものを使う方向に行かなければ国際的な競争力を持てないわけです。
その意味で、私は自然エネルギーに懐疑的で、石炭、石油、天然ガス、そして原子力という集中的な出力のあるエネルギーの道を行かないと、発展の原動力を失うのではないかと思っています。
だから、エコロジーを訴えて、「自然エネルギーでいい」と言っている人は、エネルギー出力密度が下がったときの日本はどうなるのか、産業はどうなるのか、それを保証してくれるのかどうかが聞きたいのです。
『作られた環境問題』NHKの環境報道に騙されるな! 武田邦彦・日下公人 (WAC 文庫 平成21年発行)より
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