◎京都議定書は日本だけが損をする不平等条約
武田: 騙されると言えば、日本は環境問題に関しては先進国であるにもかかわらず、政治的な観点ではなく、工学的な観点から見ても、なぜ一九九七年の京都議定書(注10) をあのような不利な状態で批准してしまったのか、不思議でならないのですが。温暖化というのは世界全体のことですから、日本が特に被害を受けるというものでもないし、日本はCO2の排出量も少ないので、まるで自虐的な民族に見えます。
アメリカは当時のアル・ゴア副大統領が代表として署名をしましたが、最初から批准しないのではないかと懸念されていました。というのは、すでにアメリカにはこの年の夏、「バート・ヘーゲル決議」がなされていたからです。その内容は、「もし、京都会議でC02の規制に発展途上国が入らない場合にはアメリカは批准しない」というものだったからです。
いろんな国際的な力関係がある中で、各国はみんな政治問題の一っとしてC02問題というものに取り組んでいた。それにもかかわらず、「なぜ日本だけが政治問題ではなく、環境問題なの?」というのが私の素朴な疑問なんです。日本だけが環境問題として取り組んできた結果、あのような不平等条約になってしまったわけです。
その内容については、『環境問題はなぜウソがまかり通るのか2』に詳しく説明してあります。その肝心なところだけを言っておけば、要は、基準年を一九九〇年とすることで各国の不平等が如実に出た。とりわけ日本にとっては不利な条件になったということです。
というのは、日本はすでに一九七〇年代の石油ショック以来十五年かけて省エネ化を進めてきて、九〇年にはC02排出量が少なくなっていたからです。しかも、技術的にもその基準年は日本が省エネルギー技術を磨いた直後だった。
日本政府は深い戦略とトータルな外交政策の中で京都会議に臨んだのか。それとも、そうではなくて、単に当時の橋本総理大臣[参考・橋本龍太郎一九三七~二〇〇六年一九九六年一月村山内閣退陣後、総理大臣に。一九九八年七月参議院選挙の敗北で首相を辞任]のメンツなど、くだらないことだったのか。京都会議ではヨーロッパが妥協をするために持ち出した排出権取引について、環境庁と経産省が事前の打ち合わせをしていなかったので、会議場で喧嘩するといったことがあったとも聞こえてきました。そういう状態でああいう大きな会議に臨んだ。
もう一っ、この前の洞爺湖サミット(二〇〇八年七月七i九日まで北海道洞爺湖で開催された第三十四回主要国首脳会議)のときに、ある新聞社の編集委員が私のもとに電話をかけてきました。そのときに、彼は「洞爺湖サミットで日本がC02問題についてイニシアティブを握ることはできません。なぜなら、政府の首相官邸でそういう立案をする力のあるグループがいませんから」と言っていました。
つまり、事前にヨーロッパやアメリカと話をして、洞爺湖サミットで日本から提案して、現実に国際的に評価されるような提案を出す力があるようなグループは、日本の官僚などにはいないというわけです。
私は、「そんなことないでしょう、日本にはいっぱい優秀な官僚がいるんだから」と言ったのですが、もし、ほんとうに日本にはそんな官僚がおらず、今後も日本がきちんとイニシアティブがとれないとしたら、たとえば第二次京都議定書みたいなのが結ばれるときに、どうなっていくのでしょうね。
結果としては、洞爺湖サミットでは、日本政府は、温室効果ガス削減の目標作りをめぐり、もっともかたくなだったアメリカを、「二〇五〇年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を半減させる」というおそらくは実現不可能な長期目標で主要八カ国(G8) の足並みをそろえさせ、インドなどほかの主要なガス排出国も交えた形で合意を目指すことになったと自己弁護していますが、金融崩壊を直前にして、ほとんど成果の無かったサミットとしては、大失敗であったことは確かです。
とにかく、いま話したように、一九九〇年基準というのは、日本にとっては著しく不利ですが、それが全体としてどうなっていくのか。
たとえばヨーロッパはEUを十五カ国から二十七ヵ国に増やそうとしています。これから入ってくる十ニヵ国はすべて旧共産圏で、クレジットを平均でマイナス三六%持っています。つまり、その分は増やしても大丈夫だということです。
よく乾いた雑巾と言っているのですが、国内総生産(GDP)当たり、どのくらいのエネルギーを使っているかを比べると、日本は断然低いのです。GDP一億ドル当たりで原油換算で何トン使っているかといえば、二〇〇〇年の数字を見れば、〇・九二(原油換算トン/ GDP 億ドル)です。次いで低いのがドイツの一・ニ六、フランス一・四六、イギリス一・七八、そしてアメリカは二・五六です。
日下: 福田(康夫当時首相)さんは、環境サミットの冒頭で「日本は脱退する」と言うべきだった。「日本は脱退する」と言ったら、世界中の国がみんなはじめて本気で検討してくれますよ。そんなことは別に官僚のスタッフなどいなくたって、福田さんの決心一つでできたはずですよ。そのくらい揺さぶらなければ動かないのが国際関係なんですよ。
(注10)京都議定書
一九九七年十二月に京都市で開かれた、世界百五十五ヵ国が参加した「第三回気候変動枠組条約締約国会議」(通称「地球温暖化防止京都会議」)で議決した議定書。正式名称は、「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」
この議定書で、温室効果ガス六種(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、HFC、PFC、SF)を、二〇〇八~ニ〇―二年までの期間中に一九九〇年を基準にするという矛盾は含んでいるが、先進国全体で少なくとも五%削減を目指すことに。各国の目標としては、日本マイナス六%、アメリカマイナス七%、EUマイナス八%など。
『作られた環境問題』NHKの環境報道に騙されるな! 武田邦彦・日下公人 (WAC 文庫 平成21年発行)より
R061220 P98