三四郎の内面描写と美禰子の外面描写
美禰子は 、外血はあくまでしとやかで凛とした態度であるが、内心は
「アッ、池の端で出逢ったこの前の学牛さんだわ」
と直感した。あの時の印象はしつかりと眼に焼きついている。廊下ですれ違う時にも狼狽することなく優雅にお辞儀をして、美禰子から丁寧に声を掛けた。こういうところは、いかにも美禰子らしい落ち着きで三四郎とは対照的である。言葉を交わしてから、学生がよし子の部屋に行っていたことがわかり、野々宮と何らかの関係がある人だということがわかった。
美禰子と三四郎は二度目の出逢いで、お互いに少し繋がりがあるのでは、と思った。
その後、美禰子は、よしfに会って野々宮がくれたリボンを見せながら、
「これ、お兄様が、私の誕生祝いにくださったのよ! 」
と嬉しそうに話している。
そして、
「ところであの学生さん、どこの人?」
と三四郎について聞くことも忘れなかった。
三四郎は女を見送って、ぶらリと玄関を出た。
医科大学生と間違えて部屋の番号を聞いたのかと思って、五、六歩あるいたが、急に気がついた。十五号と聞かれた時、もう一度よし子の部屋に後戻リして案内すればよかった。
残念なことをした。
今更とって帰す勇気はなく、やむをえずまた五、六歩あるいたが、今度はぴたリと止まった。
三四郎の頭の中に、女の結んでいたリボンの色が映った。そのリボンの色も質も、たしか野々宮さんが「かねやす」で買ったものと同じであると考え出した時、三四郎は急に足が重くなった。
図書館の横を正門の方に出ると、どこから来たのか与次郎が突然声を掛けた。
「おい、何故休んだ」
と言いながら、傍に寄ってきて三四郎の屑を叩いた。正門の傍に来た時、三四郎は、
「君、今頃でも薄いリボンを掛けるものかな。あれは極暑(ごくLょ)に限るんじゃないか」
と聞いた。与次郎はアハハと笑って取リ合わなかった。 (83)
『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より R0720250428