美禰子と三四郎の心のうち
学問をする人がうるさい俗用を避けて、なるべく単純な生活に我慢するのは、みんな研究のためで仕方がない 。学生同様な下宿に入っているのも畢竟(ひっきょう)、野々宮が偉いからで、下宿が汚ければ汚いほど尊敬しなければならないーーと美禰子は賛辞を並べたのである。
美禰子は最近の野々宮の行動がどうも腑に落ちない。大久保の一軒家をすぐ引揚げて、自分は汚い下宿に入る 。よし子は美禰子の家に勝手に押し付ける。みんなで団子坂の菊人形を見に行った時もそうだった。三四郎と自分が仲間からはぐれても全然気にも留めなかった。野々宮のデリカシーのなさに、美禰子は悲しくなった。美禰子との結婚は遠のくばかりである。しかし、美禰子にはプライドがあるから愚痴を言うのははしたない。野々宮の研究者としての偉大さを尊敬して精一杯褒め讃えた。そして、この時美禰子は野々宮とは住む世界が違うのだと感じて結婚を諦めようと思った。
一方、三四郎は、それを野々宮に対する賞賛であると正直に受け留めて、自分は到底野々宮にはかなわないと美禰子を諦めかけた。
三四郎は赤門の所で二人に別れた。

気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より R0720250527