終章 その後の二人
さて、その後の二人はどのような人生をたどったのであろうか。
美禰子は
美禰子は兄の友人である実業家と見合結婚をした。豪華な晴れやかな結婚式で、美禰子の結婚は祝福され、世間的には幸せな人生の門出に相応しいものであった。多少結婚は遅れたものの、夫は兄と同じ大学出の法学士で、背の高い眼鏡をかけた紳士である。現在は大企業営業畑の中堅社員であるが、将来は幹部クラスとして嘱望されている。相手として不足はなかった。これまで順調に昇進してきた。
しかし、結婚後、まもなく関西に転勤になった。関西での大きな商談に絡んで、夫の営業力と人脈が必要となったからだ。夫の人脈は、同じ大学の友人で、ある官庁の幹部であった。大型公共事業にからむ長期契約であリ、商談は毎夜、接待の席て行なわれた。美禰子は、関西に転勤後、夫の帰リが遅いので、夜も一人で食事をすることが多かった。週日も夫は付き合いや会合に出て留守勝ちで、一人寂しく孤独な時間を過ごすことが多くなっ
た。加えて、東京という近代文化の中で育った美禰子は、関西での生活は親しい友人もできず、中々馴染めなかった。しかし、日曜日には一人で教会に通い、神に祈リを捧げ、安息の時間を過ごすのが、せめてもの心の癒しであった。
数年は、夫の会社も順調に収益を伸ばし、夫の地位も上がってきたが、ある時、収賄事件が発覚し、新聞記事になった。夫も何らかの関わリがあるようで、事態は急変した。夫はまた東京に転勤になった。
『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より R0720250717