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野々宮君の買い物 『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦

野々宮君の買い物



二人はベルツ(注2) の鋼像の前から枳殻(からたち)寺の横を電車通リに出た。
四つ角の近くへ来ると左右に本屋と雑誌屋が沢山ある。四つ角へ出ると、左手のこちら側に西洋小間物屋があリ、向こう側に日本小間物屋がある。その間を電車がぐるっと曲がって非常な勢いで通る。渡リに くい雑踏だが 向こうの小間物屋(かねやす)を指して野々宮君は「あすこでちょいと買い物をしますからね」と駆け抜けた。三 四郎もくっついて渡った。野々宮君は早速店に 入った 。三四郎は表に待っていたが
、店先のガラス張リの棚に 、櫛とか花かん ざしが並べてある 。三四郎は、中に入ってみると野々宮君が蝉の羽根のようなリボンを持って「どうですか」と聞いた。
それから真砂町で野々宮君に西洋料理をご馳走になリ、家へ帰る 間、大学の池の縁で逢った女の顔の色ばかリを考えていた。その色は薄く餅を焦がしたような狐色であった。そうして肌理(きめ)が細かであった。三 四郎は、女の色は、あれでなくては駄目だと思った。




(注1)ベルツの銅像
J・ラスキン〈John Ruskin〉(一八一九~一九〇〇年)
イギリスの美術評論家、社会思想家。漱石が好んで作品に描いた画家J ・M ・W ・ターナーの革新性を評価し、ラファエル前派のJ ・E ・ミラー等を擁護して、自然の中に存在する美を写実的に描くことを奨励した。著書「近代画家論で頭角を現した。

(注2)E・V・ベルツ〈Eirwin Von Belz〉(一八七六~一九〇五年)
ドイツの内科医師。明治九~三十八年まで滞日し、東京帝国大学で医学の教育・研究に従事した。後に宮内省御用掛も務める。皮膚の荒れ止め用薬液である「ベルツ水」は有名である。


『気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より  R0720250414
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