与次郎の借金の言い訳
三四郎は、与次郎が借金は返さないだろうと思っていた。与次郎も返すとは言わない。返せない事情を色々と話す。逆に返さなくて却って人の助けになるという話もした。与次郎は、
「俺が金を返さないからこそ、君は美禰子さんから金を借リることができたのだ‥‥‥君、あの女を愛しているんだろう‥‥‥いつまでも借リておいてやれ」
と勝手なことを言う。三四郎は月に送金される三十円のうち、二十円は下宿に払っておリ、残リの十円を美禰子に返そうかと思っていたが、精養軒で二人分の会費を払ったリ、自分のシャツを買うので、思い切って、また国元に請求しようと思った。月の生活費を二度も請求する理由に困ったが、友人が金を失くして困っていたから貸してやったと手紙で出した。しかし、なかなか返事が来ない。もう来る頃だと思って下宿に帰ったら、果たして来ていたが、書留でなく不親切なくらい簡単に‘依頼の金は野々宮さんの方へ送ったから野々宮さんから受け
取れということであった。
気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 （文芸社刊 2016年）より R0720250615
