ちゃんとした説明
ここまでレジ袋追放の「理由」と「裏話」をしてきましたが、もう一度、順序を追って説明しましょう。何しろ、完全に理解することが大切ですから。でも、しつかりした説明のために数字が入るので、勘弁してください。
日本では1年間にレジ袋を300億枚も使いますが、レジ袋は技術の粋を集め、1枚ー枚は非常に軽く省資源にできているので、石油の消費量は全部で15万トンにしかなりません。だからもし日本人が全員で心を合わせてレジ袋を追放したとしても、日本の石油の消喪量2億5000万トンの1700分の1にしか過ぎません。
つまり、もし、「レジ袋」が無くなって、さらに「マイバッグも専用ゴミ袋も使わない」としても、石油の節約には全く役に立たないのです。
もっとわかりやすい目安を二つ示します。
まず、一人の人が1年間に使うレジ袋と、その人が自動車を1年に一度だけ、1時間ほど走るときに使う石油の量がほぼ同じです。ということは毎日1時間、車に乗る人は「365人の人が1年間で使うレジ袋(石油)」を一人で使っていることになります。
もうひとつ。
もし、世界中の人が全員、日本人と同じようにレジ袋を追放したとしましょう。今、石油が40年後に枯渇すると言われていますが、それが9日延びるだけです。つまり、世界中の人が、毎日の生活を不便にしてレジ袋を使わないようにしても、石油が40年で無くなるところが、40年と9日になるだけなのです。
専門家の間では、レジ袋を追放しても40年が40年と9日になることはよくわかっていますので、「レジ袋の追放は石油の節約になる」とは言わないで、「レジ袋の追放は、環境に無関心な人に、環境の大切さをわかってもらうため」と言うのです。でもそれは表向きの理由で、本当は「スーパーが儲かるため」です。
最後に、専門的になりますが、石油とプラスチックの関係を説明しておきましょう。
石油は大昔の生物の死骸ですから、石油からは多種多様な製品ができます。ガソリンや灯油はもちろんのこと、プラスチック、ゴム、合成繊維などもすべて石油から作られます。
ウシに悪いのですが、ウシにたとえるとよくわかります。
ウシの肉には「霜降り」もとれますし、「細切れ」もあります。「霜降り」は高いのですが、それは「霜降り」はあまりとれないのにみんなが食べたいので高くなり、「細切れ」のように多くの肉がとれるものは安くなります。
石油製品もそれと同じで、マイバッグの原料となるポリエチレンテレフタレートは、高価で少批しかとれない「霜降り」のようなもので、婦人用のジョーゼットや紳士物のYシャツなどになりますが、レジ袋や専用ゴミ袋は、ビールを運ぶケースやポリ袋などにしかなりません。
一頭のウシから少量しかとれない「霜降り」を節約するとウシを屠殺する数が減りますが、余り気味の肉を減らしても、それほど効果はありません。これと同じように、膨大な量の石油を減らすには、その中でも最も値段の高い(人気のある)ものを減らせばよいのですが、あまり人気の無いのものを減らしても、全体は減らないのです。
レジ袋の追放運動というのは実にばからしいもので、「細切れ」を食べるのをやめて「霜降り」にしようと言っているようなものなのです。さらに前にも言ったとおり、日本の石油の消費量の1700分の1ですから、意味がないのです。
結論
レジ袋を止めると石油の浪費になる。
専門家は利権に配慮して、事実を伝えようとしない。
私は「日本人の誠」を大切にします。誠実さを失えば、犯罪は増えますし、生活もギスギスします。毎日、買う食べ物をいくら「顔の見える」といって農家の人の写真を添えても、「誠実さ」がなければ、どれが安全な食べ物か買い物をする方にとってはわからないのです。だから、この世は「誠実さ」こそが大切です。
私はもし、自治体が「隣町と話すのはイヤだし、袋がそろっていた方が手間がかからない。石油の消費など関係ない」と言い、スーパーが「有料でレジ袋を仕入れて、無料でお客さんに渡すのは辛い。儲けさせてくれ」と本当の理由を言えば、考えてもいいと思います。
『家庭で行う正しいエコ生活』武田邦彦 平成21(2009)年 講談社刊より 20251128
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