解説 美禰子の肖像画

この章は短いが、広田先生と原口の談話の中で、原口が美禰子をモデルにして肖像画「森の女」を描き展認会に出そうと思っていること、美禰子がそれを承諾して、自分の希望のポーズを依頼したことが述べられている。
原口は以前、展覧会とは別に、美禰子から「森の女」の肖像画を描いてほしいと頼まれていたので、単純に美禰子の「森の女」の粗描(下絵)を始めていた。
美禰子の意図は、結婚のことも考えて、「森の女」を自分も描いてもらいたいと思っていたのである。そこであの日、偶々大学病院に行った時に、看護婦に案内してもらい、肖像画「森の女」の場面を設定していた。
ところが、その後、三四郎に出逢った。現在は美禰子の心境に変化がある。普通の肖像画「森の女」ではなく、特別なものとして、三四郎への愛を込めて、あの日の服装で、団扇を蒻したポーズの肖像画を指定した。明らかに三四郎を意識している。
現在の美禰子の気持ちは、既に野々宮から離れて、三四郎に向かっている。
気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より R0720250603