美禰子の家を訪問
三四郎は、人から金を借リたことがない。まして女性から金を借リるのは何となく気が引ける。独立した人間てないから、兄の承諾も得ていない内緒の金となると、あとで貸した人の迷惑になるかも知れない。でも、逢ってみよう。それから考えてもよい。ともかく、美禰子の顔や、手や、襟や‘帯や、着物やら、あらゆる姿を想像している。美禰子が自分をどう思っているのか、どうもわからない。
明日の会見がどちらに出るのか不安である。
でも、一っよいことは与次郎に金を貸すと言ったが、その金は三四郎に直接渡すと言っている。愚弄しているのかも知れないが、そうとも取れない。美禰子が直接、三四郎に手渡すというのは、自惚(うぬぼ)れかもしれないが、ひょっとしたら自分に好意があるからかも知れない。
気楽に楽しむ漱石入門「三四郎」』武田邦彦 (文芸社刊 2016年)より R0720250607