四十三 威
前項と関連して、人間の威とは何であろうか。それは侵すべからざる自尊心の外面的なあらわれであり、男をして男たらしめるものである。人の軽蔑をかうよりも死んだほうがましという信念である。そして、そのような人間の社会的行動のあらわれは、人にけむたがられることを避けることはできない。「葉隠」は多少人にけむたがられる人間になれと教えているのである。
「主人にも、家老・年寄にも、ちと隔心に思はれねば大業はならず。何気もなく腰に付けられては慟かれぬものなり。この心持これある事の由。」(聞書第二 一七六頁)
『葉隠入門』三島由紀夫 (新潮文庫) 20240907 P79