◎文科系も知恵を出せ
日下: 文化系の立場から、うんと程度の低い、うんとわかりやすい例で言いましょう。
本田技研が赤字になりかけて困ったことがあった。今まで通りオートバイで行くか四輪自動車に突っこむかをかなり迷っていたときに、オートバイ派が、主婦向けのスクーターを考えた。それは、おばさんが買い物に行くのに乗るであろうと。
商品開発部の文科系の上の人は「女性向けだから、かわいいスクーターをつくれ」と言った。社長もそうだと、「そうしろ」と指示した。しかし、技術者は困った。「かわいいもの」なんて考えたこともない。
「かわいい」とはどういうことかと考えなければならない。そこで、この人たちが頭をしぼって、「かわいいとは四万円以下である」とまず考えた。
武田: なるほど、技術系がわかるようにした。
日下: 数値化したわけです。「四万円ならへそくりでなんとか買える。だから、主婦はかわいい」と思うだろうと。さらに重量は三十五キログラム以下というように、それなら女性の力でも上がるからと。
武田: それまではオートバイって、たいてい百五十キロはありましたからね。
日下で、もう―つはなんだったかな。あとは色がピンク色ならばかわいいと認められるんじゃないかと。それから馬力にすれば三馬力くらい。
武田: 馬力が強くては女性は困るから。
日下危ないからね。というように「かわいい」ということについて、武田さんが言うような翻訳者がいて、エンジニア語にした。そこで技術系が動き出した。
技術人としては、いままでは高馬力、高速を目指していたのに、突然、そんなオモチャのようなものをつくるのはやる気がしなかったでしょう。しかし、会社が儲けるためには仕方がない、マーケットに従うということで開発をした。
技術者はそのとき、「技術だけが世の中を動かしているのではない」と勉強したのでしょうね。だからそれをつくることができた。実際、それは売れたんです。
売れたので大量生産できるから、三台で十万円くらいまで値段が下がった。するとゴルフの景品にもなった。それくらいに当たったんです。
こんなふうに社会が受け入れた。すると、警視庁は「おれたちの仕事が増えるから禁止しろ」となった。というのは、女性たちがちょこちょこ走ったら、危なくて仕方ない。
軽便タクシー車をつくるとか四輪自動車を規制するという方法もあったが、警察がしたことは新しく出たものを規制するという方向だった。
武田: なるほど。いつもそうなのでしょうね。
日下: 警察はつねに規制するわけですが、それではどう規制すればいいかと。もう本田技研はどんどんつくっているし、おばさんたちに評判がいいから禁止はできない。
そこで文科系にも知恵のある人がいて、「危ないからヘルメットをかぶれ」と言った。
つまり、ヘルメット着用を義務化してしまった。そうすると、おばさんたちは「ヘアスタイルが潰れるからいやだ」になっちゃった。
武田: 乗らなくなる。
日下: これはもの凄い効果があったんです。文科系にも知恵はあるという例です。
武田: それはおもしろい話ですね。そういう文科系の知恵が規制する方向ではなく、社会を進歩させる方に向くといいのですが。
日下: そうですね。そもそもオートバイや自動車はこれだけたくさんの人を殺しているのに禁止にならないのは不思議ですね。自動車化は多分、アメリカの都合から日本に強制されたものだと思いますが、文科系はそれに抵抗しなかった。しかし理科系の人はアメリカ以上の自動車をつくって逆襲した。日本は自動車を完全以上に消化したんだと思います。
その副作用は個人主義の国になったことでそろそろゆり戻しが始まることでしょう。
それから経済産業省が熱心に進めている太陽熱発電や風力発電や潮流発電には、まったく効用がないと思っていますが、いつか教えて下さい。
日本ではアメリカや官庁がタクトを振って、何かが良いというと、ある瞬間から全国一斉に唱和する現象が昔からあります。私もタクトを振る側に立ったことがありますので、そうした一波が万波を呼ぶ現象については、日本国民はもっと勉強する必要があります。
『作られた環境問題』NHKの環境報道に騙されるな! 武田邦彦・日下公人 (WAC 文庫 平成21年発行)より
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