◎ CO2取り組みに対するトヨタ方式と本田方式の違い
日下: 当時、三木(武夫)さんがたしか首相になったか、なる前だったか{ 参考・三木武夫は一九七四(昭和四十九)年十二月~七六(昭和五十一 )年十二月首相、それに先立つ一九七二(昭和四十七)年十二月~七四(昭和四十九)年十二月環境庁長官だった}、公害規制、排ガス規制をかけた。
昭和四十八年規制だったと思いますが、これはアメリカのマスキー法の予定している規制と同程度の規制をすべきだということで、昭和五十三年に設定された。
当時、通産省の局長を囲む懇談会があって、そういう問題をふまえて、たぶんトヨタの副社長だったと思いますが、豊田章一郎氏を呼んだことがあった。その場に、なぜ私がいたのか忘れましたけれど。
その当時トヨタは「触媒法」をやっていた。
武田: トヨタはそうですね。
日下: トヨタは触媒法で突き進んでいるが、まだ見込みが立たない。その当時は、「あれはマスキー規制ではなく、三木規制だ。マスキー法よりもきつい」などと言われていた。そのとき章一郎氏は、「どうしても『やれ』と言うのならばやりますけど、ものすごく値段の高い自動車になりますよ。トヨタに『つぶれろ』と言うのか、そうなれば、日本国民にはみんな『歩け』と言うんですか」と言った。つまり、「こんなものできませんよ」と脅している。
しかし、トヨタの中では、死にものぐるいで触媒法をやり、また燃焼の改善もやっていると聞いていました。
つまり、日本の技術者は投げなかったわけだ。どんなに規制が厳しくても、「それを突破してみせる」と、みんな頑張った。
「日本の技術者は凄いな」と思って尊敬していた。ところが、経営者の章一郎氏は、「そんなものできませんよ。いきなり規制をかけられたらトヨタは潰れますよ。トヨタは潰れてもいいけど、日本人はみんな歩くんですか」と官庁に対しては頑張っていた。
トヨタが進めていた触媒法とは、排気ガスが出てくるときに、一度白金とかプラチナとか高価な触媒の中を通すときれいになるという方法です。そして、「触媒法というのは、明日できるかもしれないし、十年かかるかもわからない。まったく未知のことをやっていたのだから、配慮を」と言っていた。
開発の経済学というか、開発の社会学というのがあって、あらゆる新商品と社会の関係は次のような三段階を経ます。第一段階は新機能をもって登場し、社会は驚愕してそれを採用する。第二段階はその性能向上を求める。第三段階は周辺との調和を求めるというもので、自動車はもう第三段階に入っているから、 歩けと言うのは話が古すぎて脅しにならない と思ったが、社内では努力しているのだからと思って黙って聞いていた。
武田: 日本の大気汚染とそれに対する技術的な関心、もしくは技術として環境というのを見たとき、たとえばマスキー法という規制がある。すると、こうした規制があったから、大気が改善されたという議論がありますね。
つまり、マスキー法があったから大気が改善されたのだから、CO2の規制をするとよくなるというのがある。
なぜマスキー法が成功したかというと、これは私の解釈ですが、エンジンの未燃焼という技術的問題があったので、それを技術的に解決することができたからと考えています。だから、排気ガスの問題が解決したという現象は、実は奥が深く、マスキー法の成功のあとの政策の失敗の原因にもなっています。
ところで、このエンジンの未燃焼について、二つのとらえ方がある。
トヨタの触媒法は、エンジンの未燃焼をそのまま認めて、後ろのところでもう一回燃やすという方法をとった。たとえばガソリンを一リットル入れたら、〇・六リットルはエンジンで燃える。残りの〇・ 四リットルは後ろで燃やす。これがトヨタ方式です。
たしかに、排気ガスはきれいにはなるのですが、これでは、根本的な解決策にはならず、社会の負荷を増やすだけ。ところがホンダの方式は、中の燃焼率を上げるというもので、直接にいける。
『作られた環境問題』NHKの環境報道に騙されるな! 武田邦彦・日下公人 (WAC 文庫 平成21年発行)より
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