裏話 その1
かつてはほとんどの自治体では、住民がレジ袋や紙袋でゴミ出しをしていました。でも、最近「専用ゴミ袋」を使わなければゴミを持って行ってくれない自治体が増えました。レジ袋と専用ゴミ袋はまったく同じ材料(ポリエチレン)でできていますから、石油の消費という意味ではまったく同じなのです。
それなのに、なぜ、そうなったのでしょうか?
実にばからしい理由があるのです。
自治体のゴミ担当者が著者に言ったことですが、「隣町の担当者と話したくない」と言うのです。こんなことを突然言ってもわかりにくいと思いますので、少し説明します。お役所というのは時々、とんでもないことを考えるものですから。
市民がゴミを捨てるときに、誰もが家の前のゴミ集積所に捨ててくれればよいのですが、人によっては隣の市の駅のゴミ箱に捨てたり、遠くのコンビニでゴミを捨てます。そうするとその自治体は、自分とは関係のない人のゴミを処理することになります。
そんな時、「自分の市のゴミではないものを、市民の税金で処理するのはおかしい」という話が出てきたのです。そこで「ゴミが自分の市のものかどうかわかるようにしよう」ということになり、自治体ごとに名前の入ったゴミ袋を使うようになったと言うのです。
でも、本当はばからしい話です。そんな「所属不明のゴミ」などは、もともと、その自治体の処理しなければならないゴミの1万分のーにもならないので、問題にするようなものではありません。
つまり余計なお金を使い「専用ゴミ袋」を買って資瀕の無駄使いをしなければならない理由は、たった1万分の1のことを問題にして、市民全員が専用ゴミ袋を買うようになったのです。
名古屋市ではそんなことをしてきたので、「レジ袋を専用ゴミ袋に入れて出す」とか、「紙のリサイクルにも出せない段ボールを壊してたたんで、専用ゴミ袋に入れたら、それだけで一杯になった」などの笑えない事実も発生しています。
もともと、使えないような段ボールはゴミですから、それでゴミだしをすれば、一切の袋はいらずに、節約になり、環境に良いのは子供でもわかります。
「ゴミを出す」というのは「そのまま焼却してしまう」のですから、もともと捨てるもので包むのが一番、いいのです。それを、「新品の専用ゴミ袋で捨てなさい」と言うのですから、奇妙です。
これは、自分のところのことはゼッタイに隣とは打ち合わせをしないという「お役所の縦割り行政」の結果です。明治以来、日本人が「お上(かみ)」に素直なので、役所では「隣の課と相談すれば片付く」ということも、相談しないのです。その方が仕事が楽ですし、相談されると隣の課の仕事にも責任が発生してしまうからです。
残念ながら、現在の日本では、お役所で「市民のため」に考える人は「皆無」と私が思ったことが、これらの説明も理解できるでしょう。
『家庭で行う正しいエコ生活』武田邦彦 平成21(2009)年 講談社刊より 20251125
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